「さみぃ·····」
そう言って布団に忍び込んできた恋人に、小さく笑った。
「私は体温高いから嫌だって言ってなかった?」
丸くなる背中にケットを掛けてやりながら尋ねると、「今はさみぃもん」とまるで子供のような答え。
これで三つも歳上なのだから笑ってしまう。
「夏になったらまた離れていく癖に」
「冬になったらちゃんと帰ってくるからいいでしょ?」
布団の奥深くに潜り込んでそんな事を言う。
「――どっかの神話にあったね。冬の間だけ地下の王様の妻になる話」
「逆だろ。妻になりに行くから地上が冬になっちゃうんだ」
「どっちでもいいよぉ」
「本当は一年中そばにいて欲しいんだけどな」
「束縛はしない約束でしょお」
「だから我慢してる」
地下の王は寛大だったと思う。
布団から這い出してカーテンを開けると、朝の眩しい光が入りこんできた。
「朝飯出来たら起こしてやるよ」
「ふぁい·····」
もう寝落ちしかけている。
滅多に無い二人同時の休日。
今はこの歳上の恋人を目一杯甘やかして、いつか自分のそばから片時も離れないようになればいい。
地下の王になった気分で、男は笑った。
END
「凍える朝」
11/2/2025, 3:12:18 AM