もしも私がアナタと同じ生き物であったなら、この思いを伝えることも出来たのだろう。
脆弱で、ちっぽけで、アナタ達という庇護者がいなければ生きていけない私達は、ただ一つ与えられた特殊な力でアナタという存在を知る奇跡に出会えた。
私と、私と繋がる仲間達は今、アナタという存在の信奉者になっている。
私はアナタのそばにいられるという栄誉に浴し、アナタの手に触れられる悦びを、アナタの声を聞く恍惚を、全身で受け止めている。
アナタにとって私はただの道具であり、飼育物である。それ以上でも以下でもない。
私がアナタにこんな思いを抱いているなんて、想像もしないのだろう。それでいい。
アナタは光。
私はアナタの為に道具としての勤めを果たしながら、アナタに触れられた悦びを、微かな念波に乗せて仲間達へと伝える。
アナタは気付きもしないだろう。
私がどれほどアナタに恋焦がれているか。
この微弱な、小さな小さな愛はアナタに気付かれることなくただ静かに寄り添って、やがてアナタの命が終わるその時までじわじわと広がっていくのだろう。
アナタの長い指が伸びて、私に触れる。
END
「tiny love」
アレ、結局なんだったのかね。
お・も・て・な・し って。
何か残ったモノがあったのだろうか。
END
「おもてなし」
その目に気付いたのはいつだったか。
最初はああではなかったと思う。
強い眼差しではあったが、まだ触れられるあたたかさのようなものがあった。
「·····」
あぁ、また。
瞳の奥で、消えない焔が揺れている。
触れたら一瞬でこちらが消し炭になってしまいそうな、超高温の炎がその瞳には宿っている。
彼は私をどうしたいんだろう。
自分一人のものにしてしまいたいのか。
心も、体も。
もうとっくに私は彼のものだというのに。
他の誰にも触れさせないつもりなのか。
そんな出来もしないことを望んでしまったのか。
·····あぁ、そうか。
出来もしないこと、じゃないから彼は今、あんな目で私を見つめるのか。
やろうと思えばいつでも出来る。私を閉じ込めて、他の誰の目にも触れさせないで、自分一人しか見えないようにして。そうして私を正真正銘、自分だけのものにしてしまいたいのか。
やろうと思えばいつでも出来るソレをやらない事に、私は何を思えばいいのだろう。
彼は知らない。
どろどろと煮え滾る消えない焔は、とっくに私の心を焼き尽くして燃やし尽くして、彼にすっかり囚われているということに。
「いいよ、いつでも」
君のその、消えない焔で私をいっそ燃やしてしまって。
END
「消えない焔」
どうして戦争はなくならないの?
人は死んだらどうなるの?
幽霊はいるの?
宇宙人はいるの?
死後の世界はあるの?
終わらない問いは一度考え出したら本当に終わらない。
今の私のもっぱらの疑問は
「推しはどうして尊いの?」
です!!!
END
「終わらない問い」
あの人は歩き方に少し特徴がある。
足を前に出す時、体全体が上下に揺れるのだ。
その、弾むような歩き方が俺は好きで、わざと遅れて少し後ろから眺めたりすることもあった。
ちょっと前に指摘したら、「そうなのぉ?」と初めて気付いたような反応。目を丸くしたその顔が可愛くて、そして可愛いと思ってしまった自分に驚いて、俺はあの人への恋心を自覚した。
今もあの人は、俺の少し前を弾むようにして歩く。
丈の長いコートがふわふわと上下に揺れる。
袖の辺りはまるで踊るようだ。
ふわふわと揺れる袖と裾が、風を受けて更に大きくはためく。
「――」
無意識だった。
「ん~? なに?」
俺は無意識にあの人の腕を掴んで引き止めていた。
「どうしたのぉ?」
間延びした声で聞いてくる。
「あ、いや·····」
腕を離して口篭る俺に、あの人は困ったように首を傾げて笑う。
〝風にはためく裾を翻したアンタが、羽根を揺らして空へと還る天使に見えたんだ〟
なんて、そんなバカな事が言えるわけない俺は、みっともなく口篭るだけだった。
END
「揺れる羽根」