ごめんね、やっぱりどうしても君とは仲良くなれそうにないや。
これは僕が全面的に悪い。
君達に名前をつけたのは僕達で、君達がいなければ今、この国で生きてる大多数の人間は生活のリズムが狂ってしまう。
君達に名前をつけた時の僕達は、野生から生まれて秩序を作った進歩的な存在だって、愚かにも思い込んでいた。
でも今、僕達は君達に縛られて、自然に身を任せる事も出来なくなって、時間に縛られて、逸脱が出来なくなって、ただの社会の歯車になっている。
歯車が一定のリズムで回り続ける為には時間の区切り、日の区切りが必要で、僕達はもうその為に君達を利用するだけになっている。
だから僕は、君がどうしても好きになれない、
だって、君が来たら僕は仕事に行かなきゃいけない。
君が来たらその日から五日間、僕は歯車として回り続けなきゃならない。
だから僕は、君の名前を見ると憂鬱になる。
君とは友達になれそうにない。
なんてことを考えながら、日曜日の夜は更けていく。
END
「friends」
分からないなんて嘘だよ。
本当は君が俺に何を言いたいか、よく分かってる。
君はいつだって俺だけを見て、俺の為だけに歌ってくれた。君はそれを自分の為、なんて嘯くけれど、だったら俺はこんなに心動かされたりしないよ。
分からないフリをしただけ。
だって、俺は君の思いに応えられない。応えちゃいけないから。
ごめんね。
君の歌、大好きだ。
この気持ちだけは本当だから。
END
「君が紡ぐ歌」
立ち込める霧はますます濃くなっていく。
不安にかられ、足を早めた。
山奥でもあるまいに、どうしてこんなに霧が濃いのか。天気予報では霧なんて一言も言ってなかった。
――怖い。
視界が効かない。
先が見えない。
道はこっちで合ってる筈だよな?
よく知ってる筈の街が、まるで見知らぬ異世界に見える。
「おーい、こっちだよぉ」
声が聞こえた。
唐突に、前触れもなく。
その途端嘘みたいに霧が晴れて。
「久しぶりぃ。元気だったかい?」
少し窶れているけれど間違いない、あの人だ。
やっぱり彼は自分にとって光だったと、数年振りの笑顔に泣きそうになった。
END
「光と霧の狭間で」
喫茶店で紅茶を頼んだ時、砂時計が一緒に出てくることがある。
砂時計をひっくり返して、店員さんが蒸らす時間を説明してくれて、「この砂が全部落ちきったら飲み頃です」などと言ってくれる。
こういう店に当たるとちょっと嬉しくなる。
ゆったりとした時間が流れ、スマホを少し置いて砂時計が落ちきるまでの数分間、窓から外の景色を見たり、持ってきた文庫をどこまで読めるか試してみたり、砂時計の砂がサラサラと流れ落ちるのをじっと見たり、そんな時間の過ごし方が楽しくなる。
静かで雰囲気のある店にいると、砂が流れ落ちる音が聞こえてきそうだ。
そういう店の紅茶は一際美味しく感じる。
そういう店が無くならずにいつまでも残ってくれるといい。
END
「砂時計の音」
ある日、ある国の天文省の大臣が言いました。
「来年から星図が一新されます。青い星と黄色い星と白い星の連なりは、必要では無くなったので星図には載せないことになりました」
国民はみんなびっくりしました。
星図の真ん中に描かれた青い星と黄色い星と白い星の連なりは、この国の神話になぞらえた、ずっと昔からある連なりだったのです。
国民の疑問と怒りと悲しみの声に、大臣は何も答えることが出来ませんでした。
会見が終わり、城を去る大臣を一人の男が笑って見送ります。それはこの国の新たな王様でした。
「長きに渡っての王国への献身に感謝する」
嘘でした。
新たな王様はクーデターで前の王様を殺し、玉座に転がり込んだのです。彼は前王の遺産とされるものを全て破壊しました。
こうして、とある国の彩り豊かな物語とそれを語り継ぐ星の連なりは、一人の独裁者によって無いものとされてしまったのでした。
END
「消えた星図」