せつか

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立ち込める霧はますます濃くなっていく。
不安にかられ、足を早めた。
山奥でもあるまいに、どうしてこんなに霧が濃いのか。天気予報では霧なんて一言も言ってなかった。
――怖い。
視界が効かない。
先が見えない。
道はこっちで合ってる筈だよな?
よく知ってる筈の街が、まるで見知らぬ異世界に見える。

「おーい、こっちだよぉ」

声が聞こえた。
唐突に、前触れもなく。
その途端嘘みたいに霧が晴れて。

「久しぶりぃ。元気だったかい?」

少し窶れているけれど間違いない、あの人だ。
やっぱり彼は自分にとって光だったと、数年振りの笑顔に泣きそうになった。


END


「光と霧の狭間で」

10/18/2025, 3:17:37 PM