あのリズムしか思い浮かばないのは年齢だろうか?
END
「センチメンタル・ジャーニー」
窓を開けると鋭い鎌のような三日月が見えた。
銀色がかって見えるからだろうか、怜悧な刃先は触れたら切れてしまいそうだ。
眼下には灯りの落ちた街と凪いだ海。
深夜二時。誰もが寝静まる時間。
ただ一人、眠れない男は窓辺に凭れ月を仰ぐ。
「おーい、元気でやってるかい·····?」
空へ向けて呟いた声を、月だけが聞いていた。
◆◆◆
甲板から見上げた月は銀色のスプーンに見えた。
揺れる波に船の灯りが反射している。
グラスの氷が一つ、カランと音を立てて溶けた。
深夜二時。見張りの自分以外、仲間達はもう寝ている。思いを馳せるには好都合だ。
「アンタはちゃんと、眠れてる·····?」
空へ向けて呟いた声を、月だけが聞いていた。
◆◆◆
互いの声は遠く離れて届く筈もない。
けれど。
たった一人凭れた窓辺で。
寄りかかった甲板で。
確かに君の、気配を感じた。
END
「君と見上げる月🌙」
日記やスケジュール帳というものが続かない。
自分の字が嫌いだからだ。
読めればいいと言いながら、買い物メモでも自分で書いた字が気に入らないと破って捨ててしまう。
昔買った 読書日記も、一週間くらいで自分の字の汚さが気になってやめてしまった。
空白だらけの手帳はそのうちゴミ箱に行き、無駄なお金を使ったと後悔する。
今は読書管理アプリやパソコンのソフトで日記を打つから、字の汚さを気にする必要が無い。
便利になったものである。
END
「空白」
台風一過、は台風のお父さんとお母さんと子供がいると思ってた。
肋骨は左右に六本あるからろっこつと言うのだと思ってた。
そんな子供心の思い出が甦る。
可愛い勘違いを笑って思い出せる環境ならいいんだけど。
水に浸かった壊れた家電製品を運び出し、水で重くなった畳を引きずり出し、壁についた水位の後を見つけてため息をつく。
――これから再生の道が始まるのか。
いつか穏やかに思い出せる日が来るのか。
自然の猛威を改めて感じながら、二階にある非常持ち出し袋を探した。
空には虹がかかっている。
END
台風が過ぎ去って
見知らぬ土地にたった一人で
放り出されたような感覚。
泣きそう。
END
「ひとりきり」