赤、緑、青。
赤い花、緑の森、青い空。
赤い月、緑の星、青の闇。
赤く燃え、緑が消え、青く染まる。
赤ら顔の男が一人おりまして、緑の森に火をつけました。青い水は間に合わず、全て燃え尽き消えました。
男は真っ赤に泣き腫らした目で、残った緑の葉っぱを一枚拾って、青い月に翳したのです。
冷たい三日月はまるで愚かな男を笑っているようでした。
END
「Red、Green、Blue」
私の心のフィルターはとてもとても目が細かいので、
たった一人しか通さないのです。
あの人の他にも素晴らしい人はきっといるのでしょう。
あの人にも良くないところはきっとあるのでしょう。
分かっています。
でもそんな事は知った事ではないのです。
私にとって、あの人は天才で、気配りの出来る人で、世界に無くてはならない人なのです。
END
「フィルター」
「なんで仲間になってくんねーんだよー」
「食べながら喋んなよ。行儀の悪い奴だねえ」
「なあなあ、お前が仲間になったら百人力じゃねーか。仲間になれよー」
「だから無理だって言ってんでしょうが」
「なんでだよ。俺のこと助けてくれたじゃねーか」
「あのねえ·····」
「なんか仲間になれない理由があんのか?」
「逆になんで仲間になると思えるんだよ」
「だって助けてくれたじゃねーか」
「それとこれとは話が違うんだよ。ガキにゃ分からねえ事情があんの」
「分かんねえ」
「分かんねえだろうよ」
「仲間になれ!」
「命令するな」
「俺ガキだから分かんねえよ。分かるように説明しろ」
「仲間になれねえんじゃなくて、ならねえの。理由は色々。じゃあな!」
「俺は諦めねえからな!」
「·····逆になんでそんなに仲間にしたいの?」
「好きだからに決まってんだろ!!」
「··········バァカ」
END
「仲間になれなくて」
ざあざあと雨が降っている。
小さな黄色い傘が道の隅でじっと動かないままでいるのが気になって、窓を開けてみた。
「ねー、何してんの?」
もしかして、捨て猫でもいるのだろうか?
しゃがみ込んだまま動かない小さな子供の背に、もう一度呼びかける。
「なに見てるのー?」
子供はぴくりとも動かない。
何をじっと見てるのだろう? 気になる。
「あぁ、アリンコかぁ」
しゃがみ込んだ子供の視線を追うと、道の隅で蟻が行列を作って何かを運んでいた。
「おうちに行ってるの?」
子供が呟く。
「そうだね。ご飯たくさん貰えたから、巣で待つ仲間にも食べさせてあげるんだろうね」
「いいなあ」
「いいなあ?」
思いがけない反応に、思わず問い返す。
「ご飯たくさん、いいなあ」
「――」
よく見たらその子は酷く痩せていて。
そろそろ季節も変わるというのに、薄いシャツ一枚で。
「お兄さんと一緒になんか美味しいもの食べに行こっか?」
並んでしゃがみ込んでその顔を覗き込むと·····
「いただきまぁす」
バクン。
END
「雨と君」
小学生の頃、誰もいない理科準備室でホルマリン漬けのカエルを見た事がある。
ホルマリンのせいで真っ白になった体。
有り得ないところから生えていた五本目の足。
虚ろな瞳。
何気なく開けた引き戸の中にいたソレに、鳥肌が立った。
こんな田舎の小学校に何故いるのか。
どこで見つかったカエルなのか。
説明のような物は一切なく、ただガラス瓶だけがそこにあった。
私の中にある鮮烈な記憶。
思えば他にも奇妙な点はあった。
何故普段自分達が使う教室とは全く違う棟にいたのだろう?
普段は絶対触らない磨りガラスの引き戸を、何故その日に限って開けてしまったのだろう?
何故ホルマリン漬けのカエルがあんなにも気になってしまったのだろう?
考えても答えは無く、私はまた彼等に導かれる。
ゲコ。
頭の奥でナニカが鳴いた。
END
「誰もいない教室」