せつか

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ざあざあと雨が降っている。
小さな黄色い傘が道の隅でじっと動かないままでいるのが気になって、窓を開けてみた。
「ねー、何してんの?」
もしかして、捨て猫でもいるのだろうか?
しゃがみ込んだまま動かない小さな子供の背に、もう一度呼びかける。
「なに見てるのー?」
子供はぴくりとも動かない。
何をじっと見てるのだろう? 気になる。

「あぁ、アリンコかぁ」
しゃがみ込んだ子供の視線を追うと、道の隅で蟻が行列を作って何かを運んでいた。
「おうちに行ってるの?」
子供が呟く。
「そうだね。ご飯たくさん貰えたから、巣で待つ仲間にも食べさせてあげるんだろうね」
「いいなあ」
「いいなあ?」
思いがけない反応に、思わず問い返す。
「ご飯たくさん、いいなあ」
「――」
よく見たらその子は酷く痩せていて。
そろそろ季節も変わるというのに、薄いシャツ一枚で。

「お兄さんと一緒になんか美味しいもの食べに行こっか?」
並んでしゃがみ込んでその顔を覗き込むと·····






「いただきまぁす」

バクン。


END


「雨と君」

9/7/2025, 2:18:34 PM