せつか

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6/29/2025, 3:56:41 PM

深度が深まるにつれて濃くなっていく青。
もっと深く、もっと深く沈むたび、光は届かなくなって、青はその色をますます深くする。
やがて最深部へと到達すると、ほんの数メートル先ですら見えなくなって、青は青という名でなくなる。
光が届かないそこは真の闇。黒の世界。

「·····」
だけどそこにも命はあって。
ヒトの目には異形として映る奇怪な姿をしたもの達が息づいている。
大きな目。
透ける皮膚。
巨大な口。
極端に細い体。
青を通り越した黒のなかに、確かに息づく命達。

深い深い海の底。
ヒトは生身では決して生きられない世界。そんな世界でひそやかに、本能だけで生きるもの達は、命の奥深さを教えてくれる。


END


「青く深く」

6/28/2025, 4:41:06 PM

連日の雨が少しおさまって、気温が徐々に上がっていく。晴れの日が増えてきて、空の色が変わっていく。
十五年くらい前までは、夏はそうやって少しずつ近付いてくるものだった。

今は雨はほんの数日で、気温は一気に上がっていく。空は太陽が殺人級に強い光を放って、準備をしていない体や心にズカズカと容赦なく入り込んでくる。

「押し込み強盗かよ」
ソファに長身の体を預けてぐったりしながら呟いた。
「表現」
書類に目を通しながら男はソファに体を投げ出す同僚を窘める。
「よくそんなカッチリしたスーツ着て仕事出来るね」
「エアコンついてるでしょ」
「そうだけど外の景色見てたら動く気無くすよ」
同僚の言葉に男は書類に落としていた視線をゆるりと持ち上げる。
「·····」
大きな一枚ガラスの向こうにはギラつく太陽のせいでほぼ白に近い空と、光を乱反射させる高層ビルの無数の窓ガラス。
緑は無く、鳥の姿も無い街はまるで茹だっているようで。
「確かに出たくないねえ」
頬杖をついてそう呟くと、ソファに長まっていた長身がガバリと跳ね起きた。
「だろ? だから今日はもう業務終了」
薄いシャツを羽織って立ち上がると、執務机に向かったままの男に上着を投げ付ける。
「わっ·····、っぷ」
「呑みに行こうぜ!!」
「まだ三時だよ」
「どうせ依頼人なんか来ないよ」
失礼な事を言う同僚に一瞬眉を顰めるが、男はすぐに困ったような笑みを見せて歩き出す。

「飲み屋だけは変わらずにいてくれるよねえ」
「だよなぁ」

――ギラギラした夏のいいところは、ビールが美味しく感じるところ!!


END


「夏の気配」

6/27/2025, 10:56:57 PM

こんな筈じゃなかった。
むしろ敬遠していた世界だった。
私には関係ない、陽キャが好きな世界だと思っていた。
だけど知ってしまった。
まさかこんな事になるなんて。

あー!!

怖い、怖い!!

でも見たくなってしまったんだから仕方ない!!

何の話かって? 某アニメのことです。


END


「まだ見ぬ世界へ!」

6/26/2025, 2:54:12 PM

『留守録が一件あります』
アイコンをタップして音量を上げる
「もしもし、私。ごめんね、なかなか連絡出来なくて」
数年ぶりに聞く声は、記憶の中の声と変わらず少しハスキーで、煙草の煙と香りを思い起こさせた。
「今、新しい仕事が決まってさ。ちょっとバタバタしてんだよね」
興奮気味に語る声。

学生時代からの夢が叶いそうなのだと言って、相談も無く一人飛び出した彼女。それからふつりと連絡は途切れて、名前を見たのはあるドラマの端役だった。
「·····」
その時胸によぎった小さな痛み。
私を置いていった彼女。
地元で腐っていく私と、夢に向かって歩く彼女。
胸によぎった痛みの名前を、私は敢えて考えない事にした。

それから彼女の名前は時々ドラマや映画で見たが、大衆の記憶に刻まれるにはまだ少し時間がかかりそうだった。
「相談もせずに飛び出してごめん」
ハスキーな声が少し沈んだ。
「でもどうしても諦めたくなかったから」
学生時代の彼女を思い出す。
普段は冷めてたのに、夢の話をする時はテンションが高かった。
「今度の仕事は今までより大きな仕事なんだ。·····で、上手くいったら·····会いたい」
まっすぐな目を思い出す。
煙草の煙の向こうに光る、ギラギラした強い瞳。
「この仕事が上手くいったら少し休みを貰うつもりなんだけどさ·····。私もすぐ返事出来るかどうか分かんないけど、会いたいから」
――何を話すというのだろう。
――どんな顔をして会えばいいんだろう。

「また電話するね」

『再生を終了します』
スマホの画面をじっと見つめる。

この時の私は知らなかった。

これが彼女の、最後の声になるということを·····。


END



「最後の声」

6/25/2025, 9:44:52 PM

愛に大きさってあるのかな?
まぁ、あるんじゃない? 通りすがりに会ったワンコやニャンコを可愛いって思うのとか、困ってる赤の他人をちょっと手伝ってあげようかな、って思うのも、小さな愛だと思うよ。
あぁ、そっか。·····みんなそれを持ってる筈なのにね。
なんで戦争とか起こっちゃうのかなぁ。
なんでかねえ。
小さな愛をみんなで集めれば大きな愛になるだろうにね。
わからないねえ。


END



「小さな愛」

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