せつか

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連日の雨が少しおさまって、気温が徐々に上がっていく。晴れの日が増えてきて、空の色が変わっていく。
十五年くらい前までは、夏はそうやって少しずつ近付いてくるものだった。

今は雨はほんの数日で、気温は一気に上がっていく。空は太陽が殺人級に強い光を放って、準備をしていない体や心にズカズカと容赦なく入り込んでくる。

「押し込み強盗かよ」
ソファに長身の体を預けてぐったりしながら呟いた。
「表現」
書類に目を通しながら男はソファに体を投げ出す同僚を窘める。
「よくそんなカッチリしたスーツ着て仕事出来るね」
「エアコンついてるでしょ」
「そうだけど外の景色見てたら動く気無くすよ」
同僚の言葉に男は書類に落としていた視線をゆるりと持ち上げる。
「·····」
大きな一枚ガラスの向こうにはギラつく太陽のせいでほぼ白に近い空と、光を乱反射させる高層ビルの無数の窓ガラス。
緑は無く、鳥の姿も無い街はまるで茹だっているようで。
「確かに出たくないねえ」
頬杖をついてそう呟くと、ソファに長まっていた長身がガバリと跳ね起きた。
「だろ? だから今日はもう業務終了」
薄いシャツを羽織って立ち上がると、執務机に向かったままの男に上着を投げ付ける。
「わっ·····、っぷ」
「呑みに行こうぜ!!」
「まだ三時だよ」
「どうせ依頼人なんか来ないよ」
失礼な事を言う同僚に一瞬眉を顰めるが、男はすぐに困ったような笑みを見せて歩き出す。

「飲み屋だけは変わらずにいてくれるよねえ」
「だよなぁ」

――ギラギラした夏のいいところは、ビールが美味しく感じるところ!!


END


「夏の気配」

6/28/2025, 4:41:06 PM