せつか

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6/21/2025, 11:29:34 PM

待って、待って。
ずっと君を追いかけていた。
君は覚えていないかもしれないけれど、僕はずっと君を見てて。
ねえ待って、僕の話を聞いて。
夜目にも分かる君のその、背中。
僕がどんなに惹かれたか分かる?
颯爽と歩く君のその背中。
ずっと見つめてたんだ。
理想だった。

君のその背中に、広くて大きなその背中に。

×××を突き立てたら――

「ああ、ほら」

なんてキレイな――


赤。


END



「君の背中を追って」

6/20/2025, 11:43:27 PM

好きも嫌いもあるにはあるけど、そこまで激しい思いは無い。

人に対しても、物に対しても、好きだな、嫌いだなと思うには思うけど、感情の波が動くというほどではない。
グルメ番組で美味しいものを食べて感動してる人や、映画のCMで映画館から出た人が泣きながら「良かったです!」って言ってる人を見ると、凄いなって思う。勿論テレビに出てる人はそれが仕事だから分かりやすく表現しているんだろうけど、日常でもそういった自分の感情を大きく表現出来る人はいて、ちょっと圧倒される。

好きも嫌いもあるにはある。
けれど自分の好きを誰かに主張する必要性を感じないし、嫌いなものからはただ距離を置くか、それが出来ないなら我慢する。それだけ。

好き、嫌い。
私の中でそこまで重要な感情では無いのかもしれない。

END


「好き、嫌い」

6/19/2025, 10:38:28 PM

雨の匂いがホントは雨の匂いじゃない事なんか分かってる。
あれは濡れたアスファルトの匂い。
水を吸った土の匂い。
湿気を含んだ植物の匂い。
そこにいる微生物や微粒子が雨粒と反応して発する匂い。
雨そのものには匂いが無い。
みんなそれを知ってる筈なのに、何故か雨の匂いと言う。

だったら砂が流れたこの痕も、ホントは砂じゃない別の何かが流れた痕なのかもしれない。
「――」
じっと見てたらメイクをぐしゃぐしゃにして大号泣したいつかの自分を思い出して、なんだかおかしくなって雨の中ひとりで笑った。

END



「雨の香り、涙の跡」

6/18/2025, 4:35:57 PM

「私、〇〇さんの推しがよく分からないんです」
突然そう言われて、言われたこっちが宇宙猫になった。
多分、「よく分からない、とは·····?」みたいな顔をしていたんだと思う。彼女は少々バツの悪そうな顔をしながら、推しがギッシリ詰まった透明なバッグをぎゅっと握り締めた。
「共通点が分かんなくて。あの、ごめんなさい。今までも何の話してるか分からない時があって·····」

――あぁ、そういうこと。
それは私の中で彼女との糸が切れた瞬間だった。
まぁしょうがない。SNSでオタトークしてるだけの関係だ。しかも最近繋がったばっかで、リア友以外で私の歴代推しの共通点を知ってる人はほぼ皆無だろう。
彼女が持つ透明な痛バッグには、同じ髪の色の同じアクスタがこれでもかと詰まっている。
私はカバンのバンドに全く違う三種類ラバストをぶら下げている。彼女が知ってるのはその中の一人だけ。
「あの、私こそごめんなさい。××の話で盛り上がったから、てっきり·····」
「××の話は大好きなんです!」
でも多分、さっきの困惑した顔で分かってしまった。

オタクの愛で方はそれぞれで。
彼女には彼女の、私には私の〝好きになるなり方〟があって。
多分私にも彼女の推しの共通点は分からないだろうし、彼女には私の推しの共通点は分からないだろう。

「お互い見えてる糸が違うって事じゃないですか?」
「そうみたい、ですね」
「今日は××のイベントなんだからとりあえず楽しみましょう」
「はい」
――直感した。私もそう思ってしまったから。
このイベントが終わって、駅で「じゃあ」と言ったらそこで私と彼女の糸は切れる。SNSでの繋がりも自然消滅するかブロックかは分からないけれど、多分疎遠になる。こればっかりはしょうがない。温度差を感じてしまったら、以前と同じノリでは喋れなくなってしまうから。

SNSって同じものを好きな人が見つかる便利なツールだと思ってたけれど、リアルな人間関係築くのとは違う難しさがあるなと思った。


END


「糸」

6/17/2025, 3:03:28 PM

届かないのに手を伸ばす。
届かないのに背伸びする。

無駄なのに、って君は笑う。
確かに今は届かないけれど。
どうでもいい相手なら、こんなことしてない。
無理矢理にでも視界に入って、「どうだ」って言ってやりたい。
届かない筈の手が君に触れる日を待ち望んでいる。
届かない筈の背が君に並ぶのを夢見ている。

待ってて。
いつか絶対。

この思いを届けてみせるから。


END


「届かないのに」

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