「私、〇〇さんの推しがよく分からないんです」
突然そう言われて、言われたこっちが宇宙猫になった。
多分、「よく分からない、とは·····?」みたいな顔をしていたんだと思う。彼女は少々バツの悪そうな顔をしながら、推しがギッシリ詰まった透明なバッグをぎゅっと握り締めた。
「共通点が分かんなくて。あの、ごめんなさい。今までも何の話してるか分からない時があって·····」
――あぁ、そういうこと。
それは私の中で彼女との糸が切れた瞬間だった。
まぁしょうがない。SNSでオタトークしてるだけの関係だ。しかも最近繋がったばっかで、リア友以外で私の歴代推しの共通点を知ってる人はほぼ皆無だろう。
彼女が持つ透明な痛バッグには、同じ髪の色の同じアクスタがこれでもかと詰まっている。
私はカバンのバンドに全く違う三種類ラバストをぶら下げている。彼女が知ってるのはその中の一人だけ。
「あの、私こそごめんなさい。××の話で盛り上がったから、てっきり·····」
「××の話は大好きなんです!」
でも多分、さっきの困惑した顔で分かってしまった。
オタクの愛で方はそれぞれで。
彼女には彼女の、私には私の〝好きになるなり方〟があって。
多分私にも彼女の推しの共通点は分からないだろうし、彼女には私の推しの共通点は分からないだろう。
「お互い見えてる糸が違うって事じゃないですか?」
「そうみたい、ですね」
「今日は××のイベントなんだからとりあえず楽しみましょう」
「はい」
――直感した。私もそう思ってしまったから。
このイベントが終わって、駅で「じゃあ」と言ったらそこで私と彼女の糸は切れる。SNSでの繋がりも自然消滅するかブロックかは分からないけれど、多分疎遠になる。こればっかりはしょうがない。温度差を感じてしまったら、以前と同じノリでは喋れなくなってしまうから。
SNSって同じものを好きな人が見つかる便利なツールだと思ってたけれど、リアルな人間関係築くのとは違う難しさがあるなと思った。
END
「糸」
6/18/2025, 4:35:57 PM