恋の歌はどれもいまいち共感出来なかった。
美しく歌い上げるものも、喉を枯らして叫ぶものも、ポップできらきらした衣装で歌うものも、どれも私の体感とは違って思えた。
ラブソング、と銘打ってるからかもしれない。
恋愛というものにそこまで思い入れが無いからかもしれない。
ラブソングの世界では春も夏も秋も冬も、みんな恋の季節で全ての事象が恋愛に繋がっている。
生憎私はそんな世界を見たことが無い。
恋愛という概念が何よりも尊いこの世界で、恋愛感情の無い私はまるで異星人になったみたいだ。
――あぁ、そういえば。
宇宙人をテーマにしたラブソングもあったね、昔。
あの歌に出てくる〝私〟は、概念も価値観も、そしておそらく体の作りそのものも違う生き物と、本当に恋が出来たのだろうか?
END
「ラブソング」
子供の頃はかっこいいと思っていた。
〝独身貴族〟とはこういう事を言うのかと、狭いながらもアパートで独りで暮らし、文鳥と好きな本と趣味の革細工で囲まれた部屋で気ままに過ごす叔母に、「将来こうなりたい」と憧れた。
今、叔母からの手紙を開くと暗澹とした気分にさせられる。
憧れた姿は子供の無知と脳天気から来るものだった。
叔母の生活の理由とリアルを知ろうとしなかった。
時の流れは残酷で、お金が人を変えるという言葉の重さを感じる。
綴られるのは後ろ向きで、卑屈で、愚痴っぽい言葉ばかり。子供の頃は叔母からの手紙が嬉しかったのに、今は封筒の名前を見る度にため息をつく。
もっと関われば良かったのだろうか。
もっと腹を割って話せたら良かったのだろうか。
分からない。
ただ、子供の頃に憧れたかっこいい叔母はもう何処にもいない。
それだけが私の胸に酷く重くのしかかる。
季節の変わり目。
昔なら電話の一つもしただろう。
今はそんな気も起こらない。
あちらにも雨は降っているだろうか。
END
「手紙を開くと」
互いに見つめあうよりも、同じものを見つめた方がいいい。
そう言ったのは誰だったか。
それは魂が近い者だからこそ起こり得る事なのだろう。そこには関係性の名前も、性差もあまり意味が無い。例えば戦友、例えば夫婦。どんな関係であっても同じものを見つめて、同じものを感じることが出来るのならそこにあるのは建設的で、健康的で、前向きで、明るい、輝かしい、いわゆる善なるものだ。
でも、人間はそういう風に出来てない。
自分だけを見て欲しくて、自分だけが幸福になりたくて、自分だけを特別にして欲しい。
そうやって、弱い自分をなんとか支えて生きている。
同じものを見つめることも、互いを見つめあうことも出来ない私達は、すれ違う一瞬で勘違いして生きている。
END
「すれ違う瞳」
サファイアが好きだ。
そう言ったら高くて買えませんよと苦笑された。
色のついた石が好きなんだ。その中でも特に青が綺麗なサファイアが好きで·····。
あぁ、だから私の目をじっと覗き込む癖があるんですね、あなた。――どうやら見透かされていたらしい。
君の全てが好ましいけど、確かにその青に惹かれてしまうのは事実だよ。
天上の青、真実を明かす青、空と海を染める青――。
至上の宝石が私を射抜く。
寒色とも言われる青が、何故か私には熱いものに感じられて·····。
どうしました?
なんでもないよ。
そういえば、青は高温の炎の色でもあったな、などと思い出していた。
END
「青い青い」
正直、あんまり好きな歌手じゃなかった。
いわゆる正統派アイドル、ぶりっ子という言葉、フリルやレースたっぷりの衣装。どれも何故かカンに触って、男にチヤホヤされてるイメージがあって、私は断然明菜派だった。
カッコイイ明菜、可愛い聖子。
こんなイメージだった。
でも歳を重ねて分かるようになったのは、彼女の歌も素敵な歌が多くて、インタビューなんかを見るとすごくしっかりしてるということ。
あの頃は多分、売れるために作られたイメージというのもあったのだろう。
今はどちらも好きな歌手だ。
END
「sweet memories」