子供の頃はかっこいいと思っていた。
〝独身貴族〟とはこういう事を言うのかと、狭いながらもアパートで独りで暮らし、文鳥と好きな本と趣味の革細工で囲まれた部屋で気ままに過ごす叔母に、「将来こうなりたい」と憧れた。
今、叔母からの手紙を開くと暗澹とした気分にさせられる。
憧れた姿は子供の無知と脳天気から来るものだった。
叔母の生活の理由とリアルを知ろうとしなかった。
時の流れは残酷で、お金が人を変えるという言葉の重さを感じる。
綴られるのは後ろ向きで、卑屈で、愚痴っぽい言葉ばかり。子供の頃は叔母からの手紙が嬉しかったのに、今は封筒の名前を見る度にため息をつく。
もっと関われば良かったのだろうか。
もっと腹を割って話せたら良かったのだろうか。
分からない。
ただ、子供の頃に憧れたかっこいい叔母はもう何処にもいない。
それだけが私の胸に酷く重くのしかかる。
季節の変わり目。
昔なら電話の一つもしただろう。
今はそんな気も起こらない。
あちらにも雨は降っているだろうか。
END
「手紙を開くと」
5/6/2025, 3:04:39 AM