せつか

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4/6/2025, 3:05:31 PM

「ピリ・レイスの地図って知ってる?」
「当時発見されてなかった筈の南極大陸の形を正確に描いてるオーパーツ、だろ?」
「そうそう。地図って面白いよね。今の地図もある筈の建物が書かれてなかったり、この線なんだろ? ってのがあったり道が突然途切れてたり」
「ドライバーから言わせて貰えばそういうおかしなのは無い方が有難いけどな」
「GPSとか色々発達して正確な地図が書ける筈なのに、そういう〝不可解〟があるのがめっちゃ面白い」
「おい、話聞いてるか?」
「というわけで、今度の旅行ですが、ここにします!」
「·····この牧場って」
「そ、こないだYouTubeで見たヤバいとこ」
「本気かよ」
「昼間に行くから大丈夫だって。しかもこの地図最新版だよ。ほら、ここ。この新しい道抜けたらこっちの〇〇市に出るから、そしたら海で遊べる」
「うーん·····」
「あれ? 怖い?」
「怖かねえけど」
「ここのホテル、全室オーシャンビューの新しいとこなんだよ。心霊スポット巡った後は海辺のホテルでのんびりしよ」
「温度差」

◆◆◆

「ホントにこの道で合ってんのか?」
「その筈だけど·····、ナビがバグって画面がおかしくなってるよ」
「地図はどうしたんだよ」
「今見てるよ·····うぇっ、なにこれ!?」
「急に大声出すな!」
「めちゃくちゃ乱丁になってる! なんで?」
「はあ?」
「ページが、ってか、道路も何もぐっちゃぐちゃでキモい!! 一昨日までこんなの無かったのに!」
「おい、じゃあ俺ら今どこ走ってんだよ」
「わかんない」
「·····電話! ホテルかどっかに·····」
「ウソでしょ、圏外になってる·····」
「はあ!?」
「怒鳴んないでよ!」
「マジかよ勘弁してくれよ·····」

カエラセテクレ

「何か言った?」
「言ってねえよ!」
「地図が、買ったばっかなのに·····ここどこ? もう帰りたい!」
「それはこっちの台詞だよ! クソ、付き合うんじゃなかった!」

カエラセテクレ

「あ!ナビ戻っ·····!」
「前!」


アア、コレデカエレル·····。



END



「新しい地図」

4/5/2025, 4:27:36 PM

押し付けではないか。
どれくらいの深さか。
替えのきかないものか。
自分をどれだけ犠牲に出来るか。

簡単に言えてしまう言葉だからこそ、その言葉の重みは人によって全く違う。
「好きだよ!」なのか「好きだよ·····」なのか。
軽くてもいい場面と、軽々しく言ってはいけない場面。人の感情を表す言葉だからこそ、使い方が難しい。

「そんな難しいこと考えてんだ」
「難しいよ。言葉は全て、難しい」
「私はね、そんな難しいことを真剣に考えているあなたが好きだよ」
「――」


END


「好きだよ」

4/5/2025, 12:16:48 AM

「桜は好きだけどお花見は嫌い」
彼女はそう言って胡座をかいたままビールを飲んだ。

「なんで」
「だって誰も桜見てないじゃん。レジャーシートでご飯と酒とお菓子広げて、そこにいる人のご機嫌伺いしてるだけでしょ」
「辛辣。でも今は、レジャーシートじゃなくてテントらしいよ」
「知らないよそんなの」
全開の窓から少し冷たい風が入ってくるが、彼女は気にする素振りも無い。Tシャツにショートパンツ、リラックスしきった姿でビールを飲む表情は、楽しげとは言えない。
「桜は綺麗だけどちょっと視線を落とせばゴミ箱のゴミが溢れ返ってるし、ペットボトルはそこらじゅうに捨てられてるし、酔っ払いが大声でがなってるし、あんまりいい印象無い」
俺と出会う前の彼女は仕事をバリバリする〝デキる女〟だったそうだ。でも、その頃の話を聞くと決まって不機嫌になる。「昔の話はしたくない」とも言っていた。花見に対して辛辣なのも、どうやらその時の記憶が原因らしい。

「だから桜は映像で見るからいいの」
モニターにはドローンで撮影した夜桜が幻想的に浮かび上がっている。
山の中に佇む古寺。
そこに一本だけある桜の大木。
険しかった彼女の表情がふわりと和らいで、瞳が揺らめいている。
俺はそんな彼女に背を向けてベランダに出るとタバコに火をつけた。

空には大きな月。
風がカーテンを揺らす。
ベランダに出はしたが、タバコの煙が部屋に入ってしまうかもしれない。
「悪ぃ、タバコ·····」
振り返ると、彼女は胡座をかいた姿勢から膝を抱える姿勢になっていた。
言いかけた言葉を飲み込んで、俺はベランダの手すりに肘を乗せる。

静かな部屋に、ずず、と鼻をすする音がした。


END



「桜」

4/3/2025, 4:22:47 PM

夕日を背に、シルエットになった男が囁いた。
「まさか君と私が生き残るとはね」
迎える男は一瞬青い目を見開いて、やがて皮肉げに唇を釣り上げる。
「言葉は正しく使いなさい。まさか、なんて心にも無いことを。いずれ私達は再び相見える。そう確信していたんじゃないですか?」
その、らしくない笑い方に男は何故か傷付いたような顔をして、静かに「そうだね」と答えた。

二人の間を乾いた風が吹き抜ける。
瓦礫と化した城の大広間。
誰もいない玉座の前で、男は剣を構える。
夕日を背に近付く男は、相対する男の金髪を眩しそうに見つめて剣を持つ手に力を込める。

「何もかも無くなってしまったのに、どうして私達はこうして向かいあっているんだろうね」
「何故でしょうね」
その声の屈託の無さに男は酷く安堵して、ニコリと笑う。
「君と私、だからかな」
「そういう事にしておきましょうか」
座る者のいない玉座をそれでも守ろうとする男。
何もかも無くなった世界にとどめを刺そうとする男。
互いに肩を並べた記憶はもう遥か遠い。
「――あぁ、なるほど。彼の剣を〝継いだ〟のですね。それとも〝奪った〟のでしょうか。どちらにしろ貴方らしい」
「褒め言葉としてとっておくよ。君を止めるのは私しかいない。そうだろう?」
本気なのか冗談なのか、声音から男の真意を汲み取ることは出来ない。分かるのは互いがこの状況を楽しんでいる。それだけだ。

「正しいか正しくないかは、正直もうどうでもいいんだ。ただ君と、戦いたい」
「珍しく気が合いますね。私も今、同じ気持ちです」

乾いた風が吹く。
肩を並べたあの時も。
背を向け歩き出したあの時も。
本当は、正しさなんて、どうでも良かったのかもしれない。

空を舞う大きな鳥が、一際高く鳴く。
それが合図だった。


END


「君と」

4/2/2025, 4:47:14 PM

爆音と爆風を巻き起こしながら、巨大な金属の塊が空に向かっていく。
発射場の周囲を囲むフェンスに取り付いた子供達が、歓声を上げる。
空気を切り裂いてぐんぐん昇っていくと、ロケットはやがて見えなくなる。

「かっこいー!」
「宇宙まで行ったかなぁ?」
「まだ早いよ!」
子供達は興奮冷めやらぬ様子で語り合いながら走っていく。あと数分もすれば彼等は空に向かっていったロケットの事など忘れて、サッカーボールを追いかけるのだろう。

そして。

大気圏を脱したロケットは少しずつその身を削ぎ落とし、目的を達成する為に再び大気圏に突入する。

◆◆◆

『今日未明、〇〇国から発射された大陸間弾道ミサイルが××国の南部に着弾し、首都を含む半径〇〇km圏内が壊滅状態に陥っているとの情報が入ってきました』

「ミサイルだって」
「怖いね」
「なんで戦争なんかするんだろう」
「あ、そうだ!お父さん、今日ロケットが飛んでくの見たよ。すっげーかっこよかった!!」


END


「空に向かって」

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