せつか

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夕日を背に、シルエットになった男が囁いた。
「まさか君と私が生き残るとはね」
迎える男は一瞬青い目を見開いて、やがて皮肉げに唇を釣り上げる。
「言葉は正しく使いなさい。まさか、なんて心にも無いことを。いずれ私達は再び相見える。そう確信していたんじゃないですか?」
その、らしくない笑い方に男は何故か傷付いたような顔をして、静かに「そうだね」と答えた。

二人の間を乾いた風が吹き抜ける。
瓦礫と化した城の大広間。
誰もいない玉座の前で、男は剣を構える。
夕日を背に近付く男は、相対する男の金髪を眩しそうに見つめて剣を持つ手に力を込める。

「何もかも無くなってしまったのに、どうして私達はこうして向かいあっているんだろうね」
「何故でしょうね」
その声の屈託の無さに男は酷く安堵して、ニコリと笑う。
「君と私、だからかな」
「そういう事にしておきましょうか」
座る者のいない玉座をそれでも守ろうとする男。
何もかも無くなった世界にとどめを刺そうとする男。
互いに肩を並べた記憶はもう遥か遠い。
「――あぁ、なるほど。彼の剣を〝継いだ〟のですね。それとも〝奪った〟のでしょうか。どちらにしろ貴方らしい」
「褒め言葉としてとっておくよ。君を止めるのは私しかいない。そうだろう?」
本気なのか冗談なのか、声音から男の真意を汲み取ることは出来ない。分かるのは互いがこの状況を楽しんでいる。それだけだ。

「正しいか正しくないかは、正直もうどうでもいいんだ。ただ君と、戦いたい」
「珍しく気が合いますね。私も今、同じ気持ちです」

乾いた風が吹く。
肩を並べたあの時も。
背を向け歩き出したあの時も。
本当は、正しさなんて、どうでも良かったのかもしれない。

空を舞う大きな鳥が、一際高く鳴く。
それが合図だった。


END


「君と」

4/3/2025, 4:22:47 PM