〝というわけで、今回の××はここまで。お相手は、※※※※でした。リスナーのみなさんまたね! バイバーイ!〟
いつものように番組が終わると、私はタブレットの画面をタップしてアプリを閉じた。
深夜一時。
四六時中手放さなかったスマホとタブレットをようやくテーブルに置いて、私はベッドに向かう。
週に一度、大好きな推しのラジオを聞くのが私の楽しみ。
最後の「またね!」に心の中で「またね!」と返し、明日からの一週間の糧にする。
しんどい仕事、しんどい人間関係、キビシイ現実を乗り越える為の栄養剤。
だったのに。
〝〇月×日午前二時頃、アイドルグループ×××の※※※※さんが路上で車に跳ねられ、病院に搬送されましたが死亡が確認されました〟
――嘘でしょ?
END
「またね!」
※500作品達成しました。読んで下さっている皆様ありがとうございます。
「この前は歩いてられないくらいの風だったのに」
鳥居越しに揺れる桜の枝を見上げながら、呟いた。
吸い込まれるくらいに澄んだ空。
薄いピンク色をした桜は満開で、穏やかな風にその身を任せている。
コートでは少し暑いくらいだ。
参拝を済ませ、百を超える石段をゆっくりと降りながら、清浄な空気にしばらく浸る。
朝、不意に神社に行こうと思い立った。
何故かは分からない。
信心深い方では無いし、初詣ももう何年も行っていない。なのに何故か、その日は神社に行かなければ、と思った。
穏やかな風が吹く。
小さな花びらが雪のように音もなく舞っている。
一段一段、降りるたび木々の緑の間から街の景色が鮮明になってくる。
ふわり。
コートの裾が微かに揺れた。
同時にスマホが鳴って、おもむろにポケットを探る。
「もしもし。――お母さん?」
十年以上音信不通だった母からだった。
「うん。うん、·····そう。良かった。うん。分かった。なるべく早く帰るよ」
「おかえりなさい、おじいちゃん。お疲れ様でした」
声に答えるように、桜の枝が小さく揺れた。
END
「春風とともに」
〝彼は泣かない〟
なぜそんな事を思ったのだろう。
泣いたことの無い人間なんて、いない筈なのに。
どんな人間でも子供だった頃はあって、記憶は無くとも確かに泣いている筈なのに。
「涙なんてとうの昔に枯れ果てた」
その言葉の裏にある絶望と寂寥を、私は気付けた筈なのに。
あの時。
あの人を救いたいと思ったのと同じように。
彼の渇いた心を、彼の憎悪の底にあるものを、私だけは気付くべきだった。
◆◆◆
〝あの男は泣かない〟
なぜそう思ったのか。
泣くほどの挫折も、苦悩も、あの男は乗り越えるだけの強さを持っている筈だった。
「勝手に出てきてしまったんだ」
その言葉にあるのは、私には無い感情を持て余す強がりだったと、今なら分かる。
あの時。
もっと話をしたいと言ったあの男の言葉を。
あの男の誠実を、あの一瞬だけでも信じるべきだった。
◆◆◆
「あなたが泣くなんて」
「お前が泣くとはな」
泣かない強さも、泣けない弱さも、表裏一体のものなのだと気付いたのは、何度も何度も出会いと別れを繰り返した果ての、互いの涙を初めて見た時のことだった。
END
「涙」
どんな状況でもお金の心配なく生活が出来る。
容姿でバカにされたり性別で差別されたりしない。
私の世界を侵食されない。
これさえ守られていれば何とか生きていける気がします。
END
「小さな幸せ」
春爛漫。
夏真っ盛り。
秋深まる。
冬·····冬は?
冬はなんて言うんだろう?
誰か冬のこういう表現、知ってますか?
END
「春爛漫」