モータースポーツに興味を持ったのも、土方歳三を好きになったのも、戦国武将を調べたのも。
地下鉄の駅でニヤけるようになったのも、アーサー王伝説にどっぷりハマったのも。
オペラ座の怪人や吸血鬼モチーフが大好きになったのも。
みんなみんな、大好きな推しに巡り会えたからでした。もしあの人との出会いが無かったら、私の人生はどうなっていたでしょう?
今では想像も出来ません。
他の人から見たら決していい人生とは言えないでしょう。挫折や失敗は数え切れないほどありました。
それでもあの人の声で、歌で、そしてあの人の事を語れる大切な友人のお陰で、私は生きていけたのです。
そんな出会いは一生に一度あるか無いかだと思うから、そんな何かに巡り会えたら、その何かを、誰かを好きな気持ちを絶対に諦めないで欲しいと思うのです。
END
「巡り会えたら」
滅多に起こらないことだから奇跡というのだろう。
勝てないと思われた相手に一矢報いてみせたことも奇跡と言うなら、通じ合うわけがないと思われた相手と心が通じ合ったことも奇跡と言っていい気がする。
奪われて、取り上げられて、全て手をすり抜けていった。諦めて、飲み込んで、「何一つ自分の物にはならないのだ」と無理矢理自分を納得させた。
そうではない現実が、いま目の前にある――。
こんな現実、二度と無い。
これが奇跡で無かったら、何を奇跡と言うのだろう。
「××××××」
向けられる笑顔、名を呼ぶ声。
自分だけのものが、ようやく出来た。
この奇跡を守る為なら、何を敵に回しても構わない。
「·····いま行く」
そんな決意を胸に秘め、男は歩き出した。
END
「奇跡をもう一度」
最初に出会ったのは、髪の長い儚げな印象の女性でした。すすり泣くその声があまりに悲しげで、頬を伝う涙があまりに綺麗で、私は彼女に笑って欲しいと思い、手を取ったのです。
次に出会ったのは、夕日にきらめく金髪が美しい男でした。彼は眩しい笑顔を私に見せて、右手を差し出してきたのです。彼と肩を並べて歩きたい。私はそう思い、彼の手を取りました。
白い手が美しいその少女は、私のようになりたいのですと言って力強い瞳を向けてきました。私は慕ってくれる彼女に全てを伝えたいと、その瞳に頷き返したのです。
昏い瞳をした男は、私の全てが憎いと言いました。その手で全てを救えると、疑いも無く信じているその在り方が受け入れ難いと、私に指を突きつけました。
私は男の憎しみも、怒りも、まるごと受け流せると笑みを向けました。
私が出会った彼等は、誰だったのでしょう?
私は出会った彼等に、何を与え、何を奪ったのでしょう?
私は出会った彼等の全てを壊してしまったのです。
夕焼けの中で立ち尽くす私に、彼等の顔はもう思い出すことが出来ません。
私にとって彼等は·····愛するものでした。
END
「たそがれ」
あの人は自分が正しいと思ってて、手は動かさないのに口出しするのは大好きで、自分の手柄みたいに人に吹聴するんだろうなぁ·····。
んで、ちょっと意見言おうものならあからさまに不機嫌になるんだ·····。
はぁ、憂鬱。
END
「きっと明日も」
学生が引っ越して空室になったアパート。
患者さんが亡くなって空いてしまった病室。
建物自体が廃墟と化したビルの空っぽのテナント。
ただ留守にしてる部屋の静寂と、もう二度と住人が戻ること無い部屋は、やっぱり何かが違う気がする。
人の営みが止まってしまった寂しさや、時がもう進む事は無いのだという虚しさが漂うからだろうか。
いつか帰ってくる、いつか誰かが来るという期待や希望が空っぽの部屋に満ちていれば、この寂寥感はきっと気付かずにいられたのだろう。
誰もいない部屋の温度に、私は思わず両腕を抱えてさすった。
END
「静寂に包まれた部屋」