最初に出会ったのは、髪の長い儚げな印象の女性でした。すすり泣くその声があまりに悲しげで、頬を伝う涙があまりに綺麗で、私は彼女に笑って欲しいと思い、手を取ったのです。
次に出会ったのは、夕日にきらめく金髪が美しい男でした。彼は眩しい笑顔を私に見せて、右手を差し出してきたのです。彼と肩を並べて歩きたい。私はそう思い、彼の手を取りました。
白い手が美しいその少女は、私のようになりたいのですと言って力強い瞳を向けてきました。私は慕ってくれる彼女に全てを伝えたいと、その瞳に頷き返したのです。
昏い瞳をした男は、私の全てが憎いと言いました。その手で全てを救えると、疑いも無く信じているその在り方が受け入れ難いと、私に指を突きつけました。
私は男の憎しみも、怒りも、まるごと受け流せると笑みを向けました。
私が出会った彼等は、誰だったのでしょう?
私は出会った彼等に、何を与え、何を奪ったのでしょう?
私は出会った彼等の全てを壊してしまったのです。
夕焼けの中で立ち尽くす私に、彼等の顔はもう思い出すことが出来ません。
私にとって彼等は·····愛するものでした。
END
「たそがれ」
あの人は自分が正しいと思ってて、手は動かさないのに口出しするのは大好きで、自分の手柄みたいに人に吹聴するんだろうなぁ·····。
んで、ちょっと意見言おうものならあからさまに不機嫌になるんだ·····。
はぁ、憂鬱。
END
「きっと明日も」
学生が引っ越して空室になったアパート。
患者さんが亡くなって空いてしまった病室。
建物自体が廃墟と化したビルの空っぽのテナント。
ただ留守にしてる部屋の静寂と、もう二度と住人が戻ること無い部屋は、やっぱり何かが違う気がする。
人の営みが止まってしまった寂しさや、時がもう進む事は無いのだという虚しさが漂うからだろうか。
いつか帰ってくる、いつか誰かが来るという期待や希望が空っぽの部屋に満ちていれば、この寂寥感はきっと気付かずにいられたのだろう。
誰もいない部屋の温度に、私は思わず両腕を抱えてさすった。
END
「静寂に包まれた部屋」
「お疲れ様です」と言った私にあの人は「また明日」と言って笑った。私は「また明日」も会うつもりなんてなかったから、それには答えず足早に駅へと向かった。
飛び乗った地下鉄のドアに凭れる。
くたびれた顔が映っている。
疲れ果てた顔。つけてるリップの色、本当は好きじゃない。ピアスも本当は開けたくなかった。
「·····」
好きだった。
あの人の好きな私になりたかった。
優しい笑顔に、よく響く声に、慰めてくれた手に焦がれた。
でも、あの人にとって私はただの同僚で、都合のいい〝オトモダチ〟で、それ以外の何ものにもなれなかった。あの人には、既にパートナーがいたのだ。知らないとでも思っていたのか。それとも私の想いに気付かぬフリをしていたのか。もう、どっちでもいい。
「好きでした」
別れ際にそう言ってやれば、少しは気が晴れたかもしれない。
「バーカ」
ガラスに映る疲れた顔にそう言って、私はずるずると座り込んだ。
END
「別れ際に」
名前のとおりさっと降って、すぐに止んでくれればいい。
通り抜けてどこかに行ってしまうから通り雨、なのに。最近は一ところに長くい続ける雨が、人間を苦しめている。
雨そのものに悪意は無いはずなのに、いつからこんなに激しくて、攻撃的な降り方をするようになったのだろう。
しとしと、とか、サー、とか、そんな擬音が似合う雨が懐かしい。
END
「通り雨」