「お疲れ様です」と言った私にあの人は「また明日」と言って笑った。私は「また明日」も会うつもりなんてなかったから、それには答えず足早に駅へと向かった。
飛び乗った地下鉄のドアに凭れる。
くたびれた顔が映っている。
疲れ果てた顔。つけてるリップの色、本当は好きじゃない。ピアスも本当は開けたくなかった。
「·····」
好きだった。
あの人の好きな私になりたかった。
優しい笑顔に、よく響く声に、慰めてくれた手に焦がれた。
でも、あの人にとって私はただの同僚で、都合のいい〝オトモダチ〟で、それ以外の何ものにもなれなかった。あの人には、既にパートナーがいたのだ。知らないとでも思っていたのか。それとも私の想いに気付かぬフリをしていたのか。もう、どっちでもいい。
「好きでした」
別れ際にそう言ってやれば、少しは気が晴れたかもしれない。
「バーカ」
ガラスに映る疲れた顔にそう言って、私はずるずると座り込んだ。
END
「別れ際に」
9/28/2024, 2:53:05 PM