リバーシブルとか2wayの服って、買っても自分が使いやすい方か自分が好きな方しか使わない気がする。
裏返しと聞いて思いついたのはこれだった。
END
「裏返し」
なぜそんなふうに思ったのでしょう。
空を飛べるはずもないあの方が、私には大空を舞う大きな大きな鳥のように見えたのです。
それはあの方の心も、体も、本当の意味で自由だからなのだと、白く青く、そして大きな後ろ姿を見ながら私はそう思いました。
あの方が恋した相手でさえ、あの方を縛り付ける事は出来なかったのです。私達に何が出来たというのでしょう。あの方はなにものにも縛られず、自由に舞うからこそ美しく、こんなにも私達の目を引くのです。それは決して私の憧れから来る眼差しではなく、あの方を疎ましく思う人達でさえそう思っていることに、私は気付いていました。
鳥のように自由で、鳥のように美しいあの方。
美しいからこそ手に入れたいと思わせるあの方。
憧れのまま見上げるだけの私。
撃ち落とし、手に入れようとする多くの人々。
羽ばたきをやめた時、あの方はきっとそれでも美しいままでいるのでしょう。
私が焦がれたあの方は、そんな美しい鳥のような人でした。
END
「鳥のように」
感謝していると言えば良かった。
行かないでくれと言えば良かった。
·····好きだったと、言えば良かった。
いつもいつも、そうだった。
大切なものに無くしてから気付く。
その存在がいかに自分に影響を与えていたかを知る。
伝えたかった思いを伝えられず、つまらない意地やプライドで見栄を張って、去っていく背中を無言で見送った。
そうして後に残るのは、置いていかれたという身勝手な疎外感。
さよならを言う前に、もっと思いを伝えれば良かった。
END
「さよならを言う前に」
男と別れた。
すぐ手が出るDV野郎だったから清々した。
頬をぶたれたから水をぶっかけてやり返して、目の前で自分のスマホを割ってアイツとの繋がりを断ってやった。早足でアイツから離れていく間、ずっと肋骨が痛かった。
その足で飛び込んだカラオケで、六時間ぶっ通しで一人で歌った。アニソンばっかり延々六時間。声が枯れたけどスッキリした。
お腹が減ったから特大ハニートーストとストロベリーシェイクを頬張った。
カラオケを出ると日が落ちていた。
空の半分が紫で、半分が灰色だった。
空とビルの境目に星が一つ、輝いている。
生暖かい風が吹いた。
駅に着いたら竜巻注意情報が流れていた。
「·····ぷっ」
なんだか急におかしくなって、思わず吹き出した。
天気も、私の情緒もぐちゃぐちゃで、ワケが分からない。
なんとなく家に帰りたくなくて(アイツが待ち伏せしてたら嫌だし)財布を見た。
うん、と頷く。
私はその足で新幹線の切符売り場に向かった。
空はもう真っ黒で、暗い雲の合間に星がチカチカ瞬いていた。
END
「空模様」
夜中に三面鏡を見たら悪魔が出てくるとか。
あわせ鏡をしたら死に顔が見えるとか。
ムラサキカガミという名前を大人になるまで覚えていたらいけないとか。
昔は鏡の怪異が色々あったけど、今もあるのだろうか? 観音開きの鏡台とか、そういえばもうほとんど見なくなった。三面鏡の観音開きの扉を開けるのは、子供心に不思議な世界を覗き見るようでドキドキしたものだった。
今はスマホを鏡代わりに使う事すらあって、鏡の神秘性もだいぶ失われてしまった気がする。
なんて思いながらメイクを直そうとコンパクトを開けてみたら·····
「――!?」
見知らぬ人と、目が合った。
END
「鏡」