せつか

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8/7/2024, 3:06:43 PM

昆虫や魚といったある種の動物の中には、死ぬ時がプログラムされているという。
たとえば交尾を終えた時。
たとえば子育てを終えた時。
最大の仕事を終えた彼等は動く事すら出来なくなって、やがて死に至る。
人間の物差しで考えれば、それは哀れにすら思えるかもしれない。けれど彼等動物の視点で考えると、種にとって最も重要な任務を達成した事になる。
人間の中でそれだけの事を成し遂げる事が出来る人は、果たしてどれくらいいるのだろう?

そもそも人間という種にとって、最も重要な任務とはなんだろう?
不治の病の克服とか、環境破壊を止める画期的な方法を見つけるとか、そんな感じだろうか?
でもそれを成し遂げる事が出来るのは、ほんのひと握りだ。

何事も成せずに終わる。
少なくとも私にとって、人生はそう決まっているような気がする。

END


「最初から決まってた」

8/6/2024, 12:40:23 PM

その強さも温かさも、生来のものなのだろう。
太陽に愛され、太陽を背負う彼は、けれど陽の光の無い場所でも強く、あたたかだった。

あの強さと温かさに、私は強く惹かれ、そして憧れた。彼のようになりたいと、彼のようにありたいと強く願った私はイカロスのごとく太陽に近付いた。
彼の強さと温かさは、私の心と体の支えとなり、やがて憧れは共に肩を並べて歩きたいという友愛へと変わっていった。

彼は私に強くなりましたねと言う。
彼は私に優しいですねと言う。
それが真実だとしたら、それは全部彼から貰ったものだ。夏に咲くひまわりのように、彼を追いかけ続けた私は、彼の強さと優しさの欠片を貰ったのだ。

私の胸には、彼という太陽が今も輝きつづけている。

END


「太陽」

8/5/2024, 2:47:24 PM

鐘の音。
新郎新婦の門出を祝う教会の鐘の音。

鐘の音。
一年を振り返り来年の幸せを願う寺院の鐘の音。

鐘の音。
火事を知らせる火の見櫓の鐘の音。

鐘の音。
アスリート達にラスト一周を知らせるグラウンドの鐘の音。

どれも画面の中でしか聞いた事が無い。
一番身近な鐘の音は、学校のチャイムだった。でもあれも、キンコンカンコンと鳴りはするが放送だったから正確には鐘の音では無いのだろう。
学校のチャイムは、最初はどんな風に鳴らされていたのだろう?

本当の音というのが、どんどん遠くになっていく。


END


「鐘の音」

8/4/2024, 12:13:04 PM

誰かを見上げるというのは、彼にしては珍しいのだろう。少し肩を竦めて、いつもの困ったような笑い顔を浮かべながら彼は私に「何にも心配することなんかないんだよ」と覇気の無い声で答えた。
「心配なんかしていませんよ」
そう答える私もきっと、覇気の無い声をしていただろう。彼の部屋はいつ来てもきちっと整っていて、一日置きにくるという優秀なハウスキーパーを私は内心で恨んだ。
「じゃあどうしてそんな顔をしているんだい?」
「そんな顔って、どんな顔です?」
「この世の終わりでも来るみたいな顔だよ」
「来るんでしょう、終わりが」
「まだ三年も先じゃないか。」
「もう三年後、です」
押し問答になりそうなのを回避したのは彼の方だった。
「昔は私の方が君に〝後ろ向きな事ばかり言うな〟と怒られていたのにね」
クス、と笑うその顔はやけに楽しそうだ。
「一人で家にいると嫌な事ばかり考えてしまいます」
そう答えると、彼はゆっくりと右手を持ち上げて私の頬に押し当てた。ひやりと冷たい、死人のような手だった。手首も細い。パジャマはよく見たらぶかぶかで、その姿が一年という時間の残酷さを私に伝えていた。
「いいことを教えてあげるよ」
そっと囁く。覇気の無い声はその分優しさが増した気がして、私は泣きそうになるのを必死で堪えた。

「君を毎日見上げることが出来て、私はとても嬉しいんだ。だって、出会ったばかりの頃みたいだろう?」
「·····っ」
「君を手本に人としての生き方を学んでいたあの頃みたいだ」
何も言えない私の頬に押し当てた指を、彼はそっと滑らせていく。
「あの頃みたいに、私に何か教えてくれよ」
「今更何を·····」
何と答えれば彼は喜ぶのだろう? 分からない。
この時になって初めて、私はずっと彼に与えられてばかりいたのだと気付いた。

「何でもいんだ。明日の天気でも、ニュースでも、外国の言葉でも。どんなつまらないことでも、何でもいから私に教えてくれ」
「·····あなたの目」
「うん」
「昼に見るのと夜に見るのとで、微妙に色が違うんです」
「それで?」
「私は昼に見るあなたの目が·····好きなんです。光の加減か、少し青みがかって見えて」
「そうか·····、知らなかった。君の目の色に少し似てるのかな」
「どうでしょうね」
「明日も今みたいな話をしてくれよ。まだ三年もある」
「ネタ探ししてきますよ」
「あっはは」

それから私は毎日一つ、彼に何かを教えるようになった。彼が私を見上げる視線は柔らかく、淡い笑みは包み込むようにあたたかい。だが彼の指だけはいつも冷たくて、私はそれがたまらなく苦しかった。
他愛ない会話。
だがそれが永遠に続けばいいと、彼の部屋を訪れるたびに私は思った。

END


「つまらないことでも」

8/3/2024, 5:06:51 PM

今日の大失敗を忘れられるといいなぁ!!


「目が覚めるまでに」

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