せつか

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6/21/2024, 2:54:11 PM

数年前までは緑と青。
そこに紫が加わった。
要は「推しが増えたから」なんだけど。
推し色を持ち歩くだけでただの日常がほんの少し楽しくなるから、現金というかチョロいというか。
まぁそれが一日一日を生きる力になるのだから、いいか。
今の私にとっては、推し色こそが元気になれるビタミンカラーだ。


END



「好きな色」

6/20/2024, 3:47:18 PM

あなたがいたから、心を伝える事が出来た。
あなたがいたから、識別する事が出来た。
あなたがいたから、世界を作り出す事が出来た。
あなたがいたから、世界は無限に広がった。

あなたがいない世界、それは何もない世界。
あなたを一つ知る度に、世界が少しずつ広がっていく。あなたは古くもあり、新しくもある。遥かな昔に生まれたあなたも、今この瞬間に生まれたばかりのあなたも、誰かの世界を広げている。

人は生き続ける限り、あなた無しではいられない。

出来るなら、人が生き続けるように、一つでも多くのあなたが、消えずに生き残っていて欲しい。


END


「あなたがいたから」

6/19/2024, 3:20:24 PM

「降ってきましたね」
そう言って傘を差し出すと、相手は綺麗な瞳を数度瞬かせた。
「男二人では少し狭いですが、どうぞ」
「あ·····、ああ」
言葉の意味を理解するのに若干のタイムラグがあったらしく、それがなんだかおかしくてクスリと笑う。
彼は少しバツが悪そうに唇を尖らせると、
「用意がいいんだな」
と呟いた。
「天気予報で言ってましたよ。〝五時以降に帰宅する方は傘をお忘れなく〟って」
「そうだったか? 覚えてないな」
傘の中で聞く彼の声は、いつもよりよく響く。
雨の日に傘の中で聞く声が、人間の声の中で一番綺麗に聞こえるらしい。共鳴がどうの、という理由だったが彼の声は普段から綺麗だと私は思う。
「相合傘なんて初めてだよ」
私を見上げる、少しはにかんだ美しい眼差し。
鼓動が跳ねる。彼が私を見上げるたび、背が伸びたことを嬉しく思う。
「私もです」
「嘘だ。一人くらい傘を差してあげた子がいただろう?」
「それはこっちの台詞ですよ。昨日も経理の子に話しかけられてたでしょう?」
「ただの世間話だよ」
「それでも嬉しいんですよ。現に私がそうだから」
「君がそういう事を言うなんて、ちょっと意外だな」
彫りの深い横顔が僅かに戸惑っている。
雨は徐々に激しくなる。傘からはみ出した互いの肩はもうびしょ濡れだ。信号が赤になった。横断歩道で止まったのは私達だけ。
「ちょっといいシチュエーションですよね」
「なにが」
「雨の夜、傘の中で告白なんて」
「――」
少し屈んで、耳元で囁く。私の声も彼の耳に美しく響けばいい。この日が来るのをずっと願っていた。

「好きです」

信号が青になっても、私達は歩き出せずにいた。


END


「相合傘」

6/18/2024, 4:05:10 PM

「恋に落ちるという表現を考えた人は天才だね」
「·····あなたがそんな事を言うなんて、珍しいですね」
「なんだい、私が恋を語ったらおかしいかい?」
「おかしいです」
「にべもないなぁ」
「だって、〝人の感情なんて私には無いんだよ〟っていつも言ってたじゃないですか」
「うん。そうなんだけどね。私には感情なんて無いけれど、他人の感情はよく分かるのさ」
「·····」
「人の紡ぐ物語が大好きだからね」
「恋物語はあなたの好きなハッピーエンドばかりではないでしょう?」
「うん。でも、そこがいいし、それだけじゃないところもいい」
「私は·····あまり恋物語というのは分かりません」
「君はそうだろうとも。君が私に最初に語ったアレは、勘違いだからね」
「あなたの言いたいこと、今なら分かります」
「おっ、成長したね」
「怒りますよ」
「ごめんごめん。でも、成長というのは大人になっても、どうなっても出来るものだから。それを言うなら私だって成長してるのさ。·····多分」
「ぷっ」
「笑うなよ。真面目な話さ。物語を知り、感情を学び、他者との交流で自分を知る。素敵なことだよ」
「·····それが悲劇を招いても、ですか?」
「そうだよ。結末が悲劇だとして、そうして後悔を知ることも人には必要なんだ」
「後悔したくないと、みんな思っているのに」
「うん、そうだね」
――それが人間の悲哀であり、おかしさでもあり、愛おしさでもあるんだよ。

「あなたがそんな事を言うなんて、本当に珍しい。恋に落ちたのがあなたなのか、他の誰かなのか分かりませんが、幸せになれるといいですね」
「そうだね」


――多分、幸せになることと恋が叶うことはイコールじゃない。むしろこの恋はきっと悲劇になるだろう。
恋に落ちたという自覚が無いまま、終わるかもしれない。

昏い色をした目を思い出しながら、そんな事を彼は思った。


END


「落下」

6/17/2024, 1:58:04 PM

『薔薇色の未来』という言葉がある。
なぜ薔薇なんだろう?
薔薇は確かに鮮やかな色をしているけど、いつか萎れて枯れてしまう。それを見越して『薔薇色の未来』と言っているのなら、皮肉がきいているなと思う。
でも現実は、そういう意味で使われていない。
薔薇色の未来、薔薇色の人生という言葉には明るくて、華やかで、幸せなイメージしか湧かない。
そういうイメージを持つことで、少しでも前向きに生きようと自分を奮い立たせているのかもしれない。


END


「未来」

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