せつか

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6/16/2024, 1:56:25 PM

今とだいたい同じことをしていたと思う。
平日なら仕事をし、土日なら家の掃除or買い物。
父の日が前後してたから、父に缶ビールを一本プレゼントしてただろう。特に言葉を付け加えたりはしていない。はい、とビールを差し出して、「父の日だから」。これだけ。あまり余計な事を言って調子に乗せてはいけない。(父は過去に一度、とあるやらかしをしたことがあるのだ。)
父は一言、「ありがとありがと」と言ってビールを飲んで「うまいなぁ」これで終わり。
私はそれ以上何も言わずに夕飯を食べる。

多分、来年も同じように私達は過ごすのだろう。
逆に特別なことはしない方がいいのだと思う。
毎年同じように過ごすことが出来る――。災害や、犯罪や、戦争に巻き込まれることなくそれが出来るのは、幸せなことなのだともう私は知っているから。

1年後も缶ビールを一本買って、はい、と父にビールを差し出せたらいい。


END


「1年前」

6/15/2024, 2:06:47 PM

絵本でも小説でも漫画でも料理本でも、何でもいいけど「好きな本はなんですか?」って聞かれてすっと答えられる人はなんかいいなって思う。

好きの定義は人それぞれだし、その人が好きな本を私が好きかどうかは別の話だけど、そういうものを大事に出来る人はいいなって思う。

でも、押し付けは駄目だしオタク特有の早口はちょっとどうかと思う。好きを語るにも語り方、っていうのがあると思うな。

END


「好きな本」

6/14/2024, 2:37:32 PM

晴れとか雨とか曇りとか雪とか。
晴れ時々曇りとかところにより一時雨とか。
どれもこれも人間が勝手に名前をつけて分類してるだけ。空はずっとずっと昔から、変わらず空としてそこにあるのに。
いや、違うな。
空という名前ですら、人間がつけたただの名前だ。

END


「あいまいな空」

6/13/2024, 12:10:43 PM

赤紫のあじさいが一面に咲いている。
「綺麗だね」
その声に気を良くしたのか、彼は持っていた懐中電灯をゆっくり動かして、咲き誇るあじさい一つ一つを照らし始めた。
「少しずつ増やしていったからね。そう言われると嬉しいよ」
赤紫がほとんどだったが、よく見れば青や白、紫など様々な色がある。彼が懐中電灯を動かすたび、庭に植えられたあじさいとそこに降る細かい雨が幻想的に照らされる。
「あじさいの色は土の成分で変わるんだっけ?」
「そうだね。でも最近は土の成分の影響を受けない品種も出来たし、逆に色を変える為に土に入れる栄養剤も出来たりで、ある程度コントロール出来るようになったよ」
彼はあじさいについてやたら詳しい。
「じゃあ、この庭のあじさいの色は貴方がコントロールしてるの?」
「さぁ、どうかな?」
赤くなるのは土の成分がアルカリ性だからだという。私はと言えば、花はあまり詳しくない。
「桜の下には死体が埋まっている、という言葉があるだろう?」
西行だったか。
「私はね、あれは桜ではなくあじさいにこそふさわしい言葉だと思うんだよ」
赤紫の小さな花が宵闇に浮かんでいる。懐中電灯に照らされているあじさいは、雨のせいで輪郭がぼやけて、まるで手毬のようだ。
あじさいの花が赤いのは、土の成分がアルカリ性だからだ。

「桜の赤と、あじさいの赤。どちらが血の色に近いか、一目瞭然だろう?」
開け放したガラス窓に、彼の姿が映っている。懐中電灯はどうやら捨ててしまったらしい。
振り向いたその瞬間、彼が大きなナイフを振り上げているのが見えた。
――あぁ、そう言えば。
人間の血液は、弱アルカリ性だった。



END


「あじさい」

6/12/2024, 2:53:32 PM

「占い、好き?」
「時と場合による」
「なにそれ」
「TVとかでやってる占いはいい事言ってる時だけ信じる」
「分かる」
「自分の星座が最下位とかだったら見なかった事にする」
「だよね。まぁ何占いでもいいんだけどさ、私、アレだけは納得出来ないんだよね」
「なに?」
「花占い。花びらちぎって好き、嫌い、ってやるやつ」
「ああ」
「あれでいい結果になったって、絶対最後はバッドエンドだよ」
「何でさ」
「だって、花ちぎってんだよ?花びら一枚一枚引き抜いて丸裸にして、あなたの恋は叶うでしょうって、そんなワケないじゃん」
「花からすれば虐殺だもんな」
「花からは恨まれてると思うよ」
「そりゃそうだ」
「で、今日はどこ食べに行く?」
「パスタかな」
「ピザにしない?」
「なんで」
「パスタは今日アンラッキーメニューなんだよね」
「結局占いに振り回されてんのな」
「うるさーい」


END


「好き嫌い」

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