街と町。
〝街〟の方が都会的なイメージがする。
そしてそれは正しいらしい。
賑やかで、高層ビルが立ち並んで、人や車が行き交う。それが〝街〟。
〝町〟はそれよりちょっと田舎、という感じ。
田畑もあって、商店街も少し古い感じ。
漢字が違うと受ける感じが違う。
まちとまち。
かんじとかんじ。
同じ音なのに字が違うとこんなに色々違って見える。
不思議。
END
「街」
やりたいこととやれることの間にだいぶ隔たりがある。昔はちょっと我慢してお金を貯めれば何とか出来たこともあった。
でも今は、「何かやりたい!」と思ってもそこで「待てよ」と止まってしまう。
お金の事、距離の事、手続きの煩雑化·····。
やりたいことがあるなら我慢しないでやった方がいい。それはよく言われることだし、やれるならやりたいことは山ほどあるんだけれど、最近は〝勢い〟というものが無くなってきた。
でも、このまま悶々として死ぬのは嫌だから今度『やりたいことリスト』を作ろう。
END
「やりたいこと」
うとうとと微睡んでいる時の、ふわふわした感覚。
頬がぽかぽかと暖かくなって、閉じた瞼がじんわりと熱くなる。
それでもまだ布団の中でもぞもぞしていると、被っていた布団ごと抱き締められた。
「おはようございます」
柔らかい声が鼓膜をくすぐる。
小鳥の囀りよりも心地よい彼の声。
「朝ですよ」
――知ってる。
それでもまだ布団を被ったままでいると、流石に暑くなってくる。
布団や、太陽の光だけが理由じゃない。
「さあ起きて。朝食を食べに行きましょう」
彼の体温が高いからだ。
「今日のメニューは?」
布団をかぶったまま聞くと、ぐい、とその布団ごと起こされた。
「トーストとスクランブルエッグ、マフィンとポテサラ、どっちにします?」
「どっちも食べたいから交換しよう」
「いいですよ。さ、ちゃんと起きて」
立ち上がった彼が布団を剥ぎ取り、カーテンを開く。
途端に眩しい光が部屋を照らし、私は開きかけていた目をまた閉じてしまう。
「今日もいい天気ですよ」
再び開けた目に、笑う彼の金髪が朝日に照らされているのが見える。
相変わらず朝は苦手だ。
けれど、彼に起こされるのは大好きだ。
END
「朝日の温もり」
多分あそこだろうとか、あの時の言葉だろうとか、振り返ればここが岐路だった、というのはある。
でもぶっちゃけ、後から分かっても仕方ないと思う。
ここが人生の岐路だよ、ここで選択肢を間違えるとこれから大変だよ、というのが分かればいいのに。
いつもいつも、選択肢を間違えた気がする。
END
「岐路」
世界が終わるその時、なんて。
「どうなるか分かんないよね」
ソファにもたれてそう言った彼女の声に、悲愴感は無かった。
「そもそも世界の終わりなんて」
「ぼんやりし過ぎてなあ」
戦争が起こるとか、隕石が落ちるとか、超巨大台風が来るとかなら、どこかへ逃げるとか対策のしようがあるかもしれない。
目に見える〝世界の終わり〟は、世界中の学者が色々予測していて、その生々しい数値やシミュレーションした映像で恐怖を煽られながらも、私達はなんとなく覚悟を決められそうな気がする。
「本当に怖いのは、さ」
ソファにもたれた彼女はそう言って両手を組むと、ぐーっと伸びをする。
「突然訪れる〝個人的な世界の終わり〟だよね」
ガクン。
不意に力が入らなくなって、私はその場に膝をつく。
喉が焼けるように痛い。
指先が震えている。
目の前にこぼれたワインが広がっている。あぁ、拭かないと·····。
「ごめんねえ。最後に見るのがこんなろくでもない女の笑顔で」
大きく開いた口。私の大好きな、どこか歪な彼女の笑顔。黒い瞳は爛々と輝き、もがく私を見下ろしている。
――ごめんなんて、言わなくていい。
薄れゆく意識の中、声にならない声でそう呟く。
「貴方といて楽しかったけど、やっぱり私は変われなかった。ろくでなしのままだったよ」
――分かってる。だって。
私はそんな、ろくでもない狂った彼女が好きだった。
END
「世界の終わりに君と」