せつか

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世界が終わるその時、なんて。
「どうなるか分かんないよね」
ソファにもたれてそう言った彼女の声に、悲愴感は無かった。
「そもそも世界の終わりなんて」
「ぼんやりし過ぎてなあ」
戦争が起こるとか、隕石が落ちるとか、超巨大台風が来るとかなら、どこかへ逃げるとか対策のしようがあるかもしれない。
目に見える〝世界の終わり〟は、世界中の学者が色々予測していて、その生々しい数値やシミュレーションした映像で恐怖を煽られながらも、私達はなんとなく覚悟を決められそうな気がする。
「本当に怖いのは、さ」
ソファにもたれた彼女はそう言って両手を組むと、ぐーっと伸びをする。
「突然訪れる〝個人的な世界の終わり〟だよね」

ガクン。
不意に力が入らなくなって、私はその場に膝をつく。
喉が焼けるように痛い。
指先が震えている。
目の前にこぼれたワインが広がっている。あぁ、拭かないと·····。

「ごめんねえ。最後に見るのがこんなろくでもない女の笑顔で」
大きく開いた口。私の大好きな、どこか歪な彼女の笑顔。黒い瞳は爛々と輝き、もがく私を見下ろしている。
――ごめんなんて、言わなくていい。
薄れゆく意識の中、声にならない声でそう呟く。
「貴方といて楽しかったけど、やっぱり私は変われなかった。ろくでなしのままだったよ」
――分かってる。だって。
私はそんな、ろくでもない狂った彼女が好きだった。


END


「世界の終わりに君と」

6/7/2024, 3:04:41 PM