せつか

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4/30/2024, 2:46:47 PM

常夏の楽園という言葉があるけれど、常冬という言葉は無い。楽園というと、南国のイメージがあるのは何故だろう?

もこもこの半纏を着て、コタツでぬくぬくうとうとして、手を伸ばせば届くところにポットとコーヒーとお菓子があって、時々みかんの差入れがあって、そこで一日中本を読めたら、私にとってはそここそが楽園だ。

長い旅などしなくても、功徳を積むために修行などしなくても、楽園はすぐそこにある。
要は気の持ちようなのだ。


END

「楽園」

4/29/2024, 2:26:31 PM

何もかもが遠いので、私は泣くしかないのです。
時の流れも、互いの場所も、思いの在処も、何もかもが遠く遠く離れてしまって、私の思いはどこにも行き場が無くなってしまいました。

私の願いはかなわない。私の思いは届かない。
私はそれを受け入れなければならないのに、未練がましくただ泣くしか出来ないのです。

「·····歌うのが良いでしょう」
そう答えた男の声こそ、まるで歌うようだった。
「貴方が歌えばきっと声は届くでしょう」
「歌とはそういうもの。時を超え、距離などまるで無いかのように、誰かの胸を響かせる」
そう言った男の視線は、隣で涙を流す男ではなく、ここにはいない遠い誰かを見つめている。

「風に乗って届いた声は、きっと誰かを動かすでしょう。それがいつか、巡り巡って貴方に届く。たとえ命が尽きたとしても。歌に乗せた思いというのは、消えずに残っていくものだから」
「――」
涙を流していた男は微かに目を見開いて、口元だけで小さく笑う。
「歌とはそういうものだから」
「そうですか」
小さく答えた男の声は、同時に鳴ったピアノの音にあっという間にかき消されてしまう。
それでもいいと、男は思った。

END


「風に乗って」

4/28/2024, 12:17:37 PM

人の気持ちなんて一瞬で変わる。
それまで好ましいと思ってた人を些細な事で嫌いになったり、それまで何の感情も持てなかった人に些細な事で好感情を持ったり。
怒りでも、恋でも、憎悪でも、敬愛でも、友情でも、そうやって一瞬で変わる気持ちがどれだけ持続するかだろう。

「恋なんて脳が見せる幻覚」なんて言う人がいるけれど、だったら恋以外もそうだ。
脳が見せる勘違いと思い込み。自分に都合のいいものを取捨選択してるだけ。

そう思うと面倒な人付き合いも少しはラクにならない?

――そう言ったアナタの顔が、楽しそうに見えないのはどうしてかしら?


END


「刹那」

4/27/2024, 4:15:30 PM

そんなもの無いよ。
ケラケラと楽しそうに男は言った。
意味だの価値だの、そんなもの無くたって人は生きているし生きていける。意味の無い生は許されないというなら、それはとんだ傲慢だよ。
男の言葉は真理を突いている。
そんなものを声高に求めたり、したり顔で語れるのは恵まれている証拠だ。
生きる意味なんてものはね、死んだ後に誰かが勝手に見つけるものなんだよ。
それはそうなのかもしれない。
ただ、自分の生に意味や価値が見い出せないと、人は不安になるのだろうね。
男の声には微かな憐憫が滲んでいる。
その声を聞きながら私は、死ねない男の生に意味を見い出す誰かはいるのだろうかと、そんな事を思った。

END

「生きる意味」

4/26/2024, 2:35:41 PM

この言葉ほど境界線が曖昧なものはない。
時代によって、環境によって、宗教によってこの線は様々に変化する。

他者の命を奪うという、究極の行為でさえ許される場合と許されない場合があるのは、つまりそういうことなのだろう。
でもそれが悪いことだとは思わない。
人間はそうして数え切れないほどの線を引いて、秩序を、社会を、守ろうとする。
その矛盾が、そのどうしようもなさが、善と悪が場合によっては反転するその曖昧さが、人間という生き物なのだろう。

なんて、偉ぶって言ってみたけど、命を奪わずにいられるならその方がいいし、何かを傷付けずにいられるならその方がいいと思うのは、偽善なのかな。

END

「善悪」

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