せつか

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4/11/2024, 3:25:21 PM

『言葉にできない』

この言葉を見た瞬間、有名シンガーソングライターのあの歌と、何枚もの写真が現れては消えていくあの映像が頭に浮かんで、刷り込まれてるなと思ったのは私だけではないと思う。

END



「言葉にできない」

4/10/2024, 2:38:12 PM

桜が咲いている。
菜の花も、チューリップも、たんぽぽも、スミレも。
色彩が増え、気温も上がり、街が一気に華やかになる。それは勿論、街に住む人々も例外ではない。

「·····」
大通りを一本曲がって狭い路地に入る。
散乱したゴミの山に埋もれて、一人の男が蹲っている。蹲ったまま、華やいだ大通りに鋭く険しい視線を向けている。
コツ、コツ。堅い靴音が響く。
ゴミの散らばる路地に不釣り合いな、磨かれた革靴の先が自分の前でピタリと止まり、男は目を見開く。
「大丈夫ですか?」
響く低音。
視線を上げれば、スーツを着た一人の男がしゃがみ込んで自分を見つめていた。仕立てのいいスーツがしわくちゃだ。
「·····」
「ほどこしとか、そういうつもりじゃないんです」
差し出された手には、名前の知らない小さな花が一輪と、フィルムに包まれたマフィンが一つ。
「せっかくの春なので」
「·····」
思わず手を出してしまった自分に、男自身が驚いていた。
「美味しいですよ、それ」
男が立ち上がるのを目で追う。背が高い。すらりとした、綺麗な立ち姿だった。
春を体現したような男に、なぜか毒気を抜かれた気がする。

去っていく男の背越しに、大きな月が輝いていた。

END

「春爛漫」

4/9/2024, 12:22:45 PM

あなたが一番綺麗。
あなたが一番強い。
あなたが一番·····苦しんでいる。

私はずっと見てきました。
遠く離れた場所からずっと。
あなたが正しくあろうと思えば思うほどうまくいかなかったことも、あなたが愛したもの達を守ろうとしたことも、全部全部、見てきました。

でも、あなたは誰も救えなかった。
あんなに頑張っていたのに。
あんなに苦しんでいたのに。
かわいそうに。
もう、いいでしょう?
もう、かえっていらっしゃい。
何もかも捨てて。あなたの愛に応えてくれない世界など捨てて、かえっていらっしゃい。

ここならみんな、あなたの愛に応えてくれる。
優しいあなたを、美しいあなたを、強いあなたを·····いいえ、たとえあなたが弱く脆くても、みんな温かく迎えてくれる。

あなたが一番大切だから。
他の誰がどうなろうと、世界がどうなろうと、私達には知ったことじゃないから。

だから、さあ。
早くかえっていらっしゃい。

誰よりもずっと大切な、私達の大好きなあなた。


END

「誰よりも、ずっと」

4/8/2024, 3:06:29 PM

街のシンボルと言われた大きな樹。
その下で今日も人は憩いのひと時を過ごしている。

「この樹はばぁばが生まれる前からあったんだよ」
「ばぁば、ほんと?」
「ほんと。ばぁばのお父さんとお母さんも、そのまたお父さんとお母さんが生まれた頃にはもう、この樹は今と同じくらいの大きさだったんだよ」
「すごいね!」
「ずっとずっと昔から、私達を見守ってくれているんだよ」
「ふぅん」
「この街が街になるよりもずっと前、まだ森や小川があって、野うさぎが跳ねてた頃からずっと見守ってくるているんだねえ」
「うさぎさんがいたんだ」
「多分ね」
「私が大きくなっても見守ってくれてるかな」
「そうだね。これからもずっと、この樹はここで私達を見守ってくれてると思うよ」

祖母と孫の言葉に応えるように、大きな樹の枝が風に揺れて音を立てる。
ざわざわ、ざわざわ。
葉と葉が擦れて鳴る音は、二人の言葉を肯定しているのか、否定しているのか分からない。

数百年後――。
その樹は変わらず青々とした葉を茂らせて、廃墟となった無人の街を見下ろしていた。

END

「これからも、ずっと」

4/7/2024, 3:44:40 PM

陽が沈む。
空の端がオレンジ色に燃えている。
高層ビルも、公園の木も、行き交う車も、歩く人も、すべてを黒く塗り潰して。
黒いかたまりになった街は、そのまま一つの大きな生き物になってしまったようだ。
夜に向かって変貌を遂げる街の姿を、ビルの屋上で見下ろしている。
手すりに掴まって片足を跳ね上げる後ろ姿は無邪気な子供のそれに似ていた。

「しゅうまつだねー」
間延びした声で言う。
「そうだな」
短く答えて隣に並ぶ。
地平に沈む太陽の端が、黒い生き物に食べられて無くなってしまったようだ。ならばオレンジの光は黒い生き物の口から漏れた最後の吐息だろうか。
世界の終わりのような不吉な赤は、見ている者の胸をざわつかせる。

当たり前にやって来る週末のように世界の終わりも来るのなら、こんなに不安に駆られる事も無いだろう。
「最後に一緒にいられて良かった!」
「·····俺も」

陽が沈む。
オレンジの光が完全に消えてしまえば、待っているのは·····。


END


「沈む夕日」

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