「「宇宙船地球号」「一寸の虫にも五分の魂」「植物にも言葉がある」·····あなた方がお題目のようにこんな言葉を唱える前から、我々は知っていたのです」
複眼に私の顔がいっぱい映っている。
「あなた方が知っている生命はおよそ175万。しかし幸いにもあなた方に見つかっていない生命はそのおよそ15倍」
緑色をした爪が目の前に突き付けられる。びっしりと小さな産毛が生えた、薄緑色の鉤爪。
「もう、いいでしょう」
穏やかな声だが、静かな怒りを孕んでいる。
「この星の生命の頂点としての繁栄を、もう十分楽しんだのでは?」
蜜を吸う為の口吻が小刻みに揺れている。
「あなた方が理不尽に弄んだ我々の命·····返して下さいとは言いません。ただ·····もう終わりです」
背中の羽根が、鱗粉が、きらきらと輝いている。
「命に大小の差はありません。あなた方の尺度で測る時代は、もう終わりです」
ぐ、と複眼の目が間近に迫る。
鉤爪のついた腕が大きく上がる。
そこで·····私の意識は途切れた。
END
「小さな命」
あなたを愛してる。
あなたに恋してる。
愛してると恋してる。何が違うんだろう?
愛と恋とは違うもの、とはよく聞くけれど、実は違いがよく分からない。
恋は堕ちるものという表現がある。
愛はどうなるものなんだろう?
私が好きなのは某漫画にあった「心を受け取ると書いて愛と読む」という台詞。
もしかしたら、一人でするのが恋で、その恋心を受け取って愛になるのかもしれない。
なんてね。
結局分かんないや。
END
「Love you」
花の芽吹きと微睡みを促すあたたかさ。
大地を枯らし焼き尽くす苛烈さ。
どちらも太陽の真実だ。
私はそのどちらも、好きで好きで、たまらなかったんだ。
穏やかに微笑む彼のあたたかさに見惚れた。
怒りと憎悪に燃える瞳に息を飲んだ。
どちらも彼の真実で、彼の感情が自分に向けられていることに、私は昂揚したんだ。
イカロスの物語を知っているかい?
イカロスはそうとは知らずに太陽に近付き過ぎて堕ちてしまったが、私は·····知っていたんだ。
太陽に近付き過ぎるとどうなるか。
あの熱を間近で感じるとどうなってしまうのか。
それでも·····彼の近くにいたいと思ってしまった。
私は傲慢で、強欲だった。
自分は彼も、彼女も、あの方も、失わずに済むと思い込んでいたんだ。
うん。今になって気付いたんだよ。だから――。
「もう、会わないんだ。そう言って、あの人は湖に帰っていきました」
少女の小さな呟きは、誰に聞かれるともなく白い床にぽつんと落ちて、やがて消えていった。
END
「太陽のような」
何度でもやり直せるよ。
だって私達、何度もそうやってきたんだもん。
貴方が記憶を失くして、私の事を忘れたって、何度だって私は貴方と上手くやってこれたよ。
兄妹でも、友達でも、恋人でも、関係性の名前なんて何でも良かったんだよ。
ただ貴方がそばにいて、一緒に笑ったり怒ったり、泣いたり出来たらそれで良かった。
0からどころか、マイナスからだって私達はやり直せる。
ううん、やり直すんじゃない。
また新しく始めるんだ。
貴方と私の関係を。
だから、ねえ·····。
早く、目を覚ましてね。
END
「0からの」
「同情も憐れみも結構だ」
「そんなつもりは無いんだけどな」
「気付いてないなら余計にタチが悪い」
「何かで苦しんでいる人がいて、自分がその苦しみを軽くする方法を知っていたら伝えたい、と思うのは傲慢なのかな」
「誰もそんなこと頼んでいない」
「·····君こそ気付いていないなら、余計にタチが悪いな」
「何がだ」
「同情も憐れみもいらない、と言うのなら·····」
冷たい手が頬に触れる。――いや、私の顔が熱くなっているのか。
「どうしてそんな、捨てられた子犬みたいな目をしているんだい?」
その甘ったるくて低い声を聞いた途端、頭の奥に焼けるような熱を感じた。
END
「同情」