「「宇宙船地球号」「一寸の虫にも五分の魂」「植物にも言葉がある」·····あなた方がお題目のようにこんな言葉を唱える前から、我々は知っていたのです」
複眼に私の顔がいっぱい映っている。
「あなた方が知っている生命はおよそ175万。しかし幸いにもあなた方に見つかっていない生命はそのおよそ15倍」
緑色をした爪が目の前に突き付けられる。びっしりと小さな産毛が生えた、薄緑色の鉤爪。
「もう、いいでしょう」
穏やかな声だが、静かな怒りを孕んでいる。
「この星の生命の頂点としての繁栄を、もう十分楽しんだのでは?」
蜜を吸う為の口吻が小刻みに揺れている。
「あなた方が理不尽に弄んだ我々の命·····返して下さいとは言いません。ただ·····もう終わりです」
背中の羽根が、鱗粉が、きらきらと輝いている。
「命に大小の差はありません。あなた方の尺度で測る時代は、もう終わりです」
ぐ、と複眼の目が間近に迫る。
鉤爪のついた腕が大きく上がる。
そこで·····私の意識は途切れた。
END
「小さな命」
2/24/2024, 3:32:58 PM