「同情も憐れみも結構だ」
「そんなつもりは無いんだけどな」
「気付いてないなら余計にタチが悪い」
「何かで苦しんでいる人がいて、自分がその苦しみを軽くする方法を知っていたら伝えたい、と思うのは傲慢なのかな」
「誰もそんなこと頼んでいない」
「·····君こそ気付いていないなら、余計にタチが悪いな」
「何がだ」
「同情も憐れみもいらない、と言うのなら·····」
冷たい手が頬に触れる。――いや、私の顔が熱くなっているのか。
「どうしてそんな、捨てられた子犬みたいな目をしているんだい?」
その甘ったるくて低い声を聞いた途端、頭の奥に焼けるような熱を感じた。
END
「同情」
歩くたび、サクサクと乾いた音がした。
足裏から伝わる感触もやわらかい。歩道を埋める茶色の葉はまるで絨毯だ。
視線を少し上向ければ、葉がすっかり落ちて黒い針のようになった枝が空へと伸びている。
今は青空に映える枝が、じきに白い雪を乗せて頭を垂れるようになるだろう。
枯葉を踏みしめながら並んで歩く。
言葉は無く、落ち葉を踏む音が二人の耳にやけに大きく響く。
平日の公園は歩く者もまばらで、数えるほどしかいない。ふと、悪戯心が湧いて男は歩道の柵をまたぐとでこぼことした根が張る木立の中へと歩き出した。
追いかけてくる気配に胸の内で微笑む。
歩道を外れると途端に歩きにくくなる。
落ちている枯葉も小さくやわらかなものから、大きな湿ったものに変わっていた。
木の種類が変わっているのだ。構わず奥へと歩き続けると、重なりあった落ち葉と盛り上がった土に足を取られた。滑って転びそうになるのを、すんでのところで止められる。
強い腕に、引き寄せられた。
「子供みたいな事をする」
咎めるような声に、思わず笑みが浮かぶのを抑えられなかった。
END
「枯葉」
今日にさよなら 明日によろしく
明日はほんとに来るのかな
当たり前に来ると信じてベッドに向かう
今日食べたハンバーガーの味
季節外れの高い気温
明日は感じることすら出来ないかもしれない
だから今日一日にありがとう
END
「今日にさよなら」
お気に入り、というのがあまり無い。
例えばお気に入りのボールペン。
一応あるけどそれが廃番になったら「まぁ仕方ないか」って別のボールペンに乗り換えると思う。
お気に入りのぬいぐるみとか、そういうのも無い。
子供の頃に持っていた物はほとんど捨ててしまった。
嫌いになったとかじゃなく、なんとなく「もういっか」とか「まぁいいや」ってなって、処分してしまう。
お気に入りの店、というのも無い。
本が買えるなら本屋はどこでもいいし、このブランドの服じゃなきゃ駄目、というのも無い。
あぁ、でも。
本は手放したくないかな。
本だけは、死ぬまで手放したくないのが何冊か。
でもこれはお気に入りというより·····私の一部、みたいなものだからなぁ。
うーん、難しい。
END
「お気に入り」
誰よりも強いと言われた男は、私達が気付かなかった·····あるいは見て見ぬふりをした女の涙に、ただ一人気付いた男でもあった。
涙を拭うその指に、恋をするなという方が無理な話だろう。女はそうして、堕ちていった。
誰よりも弱いと思われていたあのひとの、隠された強さに私は惹かれていたのです。
人知れず涙を流しながら、それでも友の為に耐え続けたあのひとの、張り詰めた糸のような靱やかさに、私は恋をしたのです。
誰よりも強いと言われた男と、誰よりも弱いと思われていた女。
本当に強かったのは、本当に弱かったのは果たしてどちらだったのだろう?
END
「誰よりも」