真夜中のミッドナイト、というラジオ番組名は笑えた
今のところ、書いているが、いつ完成するかわからない。
ここのところ、自分の文章はヒドイと感じるので、やはり、いつ完成するかわからない。
しかし、ふつかくらいたてば、形にできるはずだ。
自分は、今回はじめて、プロットみたいなものを活用することにした。
だからといって「VIVANT」とか「SEVEN」とか「キングスマン」「ハングオーバー!!!」みたいな、めちゃくちゃおもしろい脚本をたてられるわけじゃない。
ほんとにできるかは知らないが、カノジョにこう聞かれたら、胸張って頷ける男でいたい
「後悔ってこうかい?なんつって……」
ダジャレは宙をまった。それだけだ。
笑ってくれるひとなんてましておらず、ツッコミも、無視するひとすら、いない。
風景はいつもとかわらず……
あじけないくらいまっしろな雪は、町中のやわらかな照明に、うっすら照らされて……
太陽も、空も、草も花すら、なんにもない。
なんにもないが、
雪と建物と、針葉樹以外、なんにも残らなかったが、おれはまだここにいる。
弟すらいなくなったのに。おれだけいる。
なんでもないような素振りで立ち上がってみた。
ずっと地べ、雪べた、に座ってたから、ズボンは雪を吸い込んで、ぐしょぐしょだ。
弟がいまのおれを見たら、どう思うかな。
「ウヒョウ!これで洗濯しなくてよくなったな……なんてな」
そんなこと、いうわけなかった。
あるくと、履いたスリッパが毎回雪にしずむ。
お世辞にも、あるきやすいとは言えない。
当たり前だ。室内用のスリッパだし。
弟が「ちゃんとした靴はきなよ!」って、隣であるくたび、言ってきたのをよく覚えてる。
ほんとにそうだ。思い出してるだけなのに、弟の言葉に納得できるよ。
弟は「転んだらカクジツ顔からだな!
兄ちゃん、いっつもパーカーのポケットにていれてるし!」とも言った。
おれが、いいダジャレを言って……弟がおきまりに地団駄をふんで……そのとき、なんて言ったかは忘れたがたのしかった。
さいごに「兄ちゃんがころんだら、ぜーったいわらってやるからな!」って捨てゼリフみたいなのをのこして、早歩きでおれをおいこしてく。
おれより、ずっと弟はデカくて背が高いから、おれは追いつけなかった。
……まちのあかりから、背をむけて、歩いていると、だんだん周囲に霧がかかってきて、ちょっと先すら見えなくなってくる。
転ばないように、できるだけしっかり歩いていると、なにかが足に絡まった。
そのせいで、バランスをくずして顔面につめたい雪が容赦なくぶつかった……めちゃくちゃつめたい、
自分でもびっくりするくらいすばやく上体を起こし……ひとまず冷却スプレーを顔面にふきつけられたみたいなショックからは開放される。
それでも、足にはいまだなにかが絡まってた。
なにが絡まってるのか、を確認すべく、膝をおこす。
密度が高くて、しろいが、濁っている、霧のなかだ。
スバスバ、舞い上がった雪が視界をたびたび邪魔する。
おれの足でばさばさ揺れてるのは、赤いぬのきれだった。
弟の赤いスカーフ。
分かった途端に手をのばしたが、
わかった途端、視界がグニャッと歪んだ。
思わず目をつぶって、なにかを掴んだ感触に、もう一度目を開けた、ただの雪を、にぎりこんでるだけだった。
ちょっと笑えたが、いまにもとんでいきそうなくらいはためく赤いぬのを、みたら、真逆に泣きそうになる。
「あー……くそ」
雪とか風とか、視界をおおう霧とか、それでも眩しいぬのきれ。
ぐちゃぐちゃだったが何とか掴んでひきよせた。
「くそっ、くそ〜……」
むなしいだけだ。
ぬのきれをだきしめて、ただのぬのきれなのにな、とは思ったが、それを邪険にすることもできずに、ぬのを飛んでいかないように、風から守ろうと、背をまるめて、あげくに額を雪べたへひっつける。
目元の雪が、少し濡れたのを一瞬見た。
赤い布は弟のだ。
クズでバカでヘタレなおれの、めちゃくちゃもったいないくらい、いいやつだった弟のスカーフだ。
「う、……ッう……」
おれは後悔のしかたすら、
立派な弟から学んだ。
ころんだおれを笑うことすら、弟はできない。
「みて兄ちゃん!星が風にふかれてる!」
ところどころにある、夜空につまようじで穴を開けたみたいな、白い点々をゆびさして、弟がおれを揺らした。
あくびまじりに、弟がゆびさす星をみあげてみるが、別になんのへんてつもない、ただの星だ。
「星だな」
とりあえず言ってみたら、弟は深く頷いて「そうだね!キレイ!」と言った。
さっきの「星が風にふかれてる」とは?
弟の、最高にイケてる思考回路が覗き見れそうだ。
「……なんで起こしたの?」
キョーミホンイで聞いてみたら、弟はハッと思い出したみたいに仰々しくおれを振り返って「そうだ、星が風にふかれてとんでっちゃってるんだってば!たすけてあげなきゃいけないでしょ!」と、まくしたてた。
おれは、もう一回空を見上げてみて、星をじーっとみつめてみた。
そしたらやっと、ちょっとずつ、星が移動しているのがおれにもわかった。
なるほど。
これを、風のせいでとんでっちゃってる、たすけてあげなきゃ!って解釈したんだな。
やっぱり超イケている。
「……なんで起こしたの?」
からかうつもりで言ってやったら、プスーッて顔を赤くした。
「もうッ!やくたたず!」
「へへへ」
ポコられながら笑ってたら、弟はふっと動きをとめて、おれをじっと見つめ出してきた。
じーっと、なんか、怪しむみたいな目で。
「なんだ?なんかついてる?」
うーん、と一声うなって、目をつぶって、また目をあける。
顎にてをそえて、顔だけはこっちへ向けてるが、目は斜め上に向けながら弟がやっと話した。
「兄ちゃん、なんでいま笑ったの?」
と思ったら、クソマジメな顔でめちゃくちゃどうでもいいことを聞いてきた、たまらない。完全におれのツボだ。
「ブッ……へへ、へ、ハハハ!」
「ええ……?なににツボってるのだ、いったい」
……しばらく笑いころげてから、息をついたら、もう一回聞かれた。
しかし、改めてなんでって言われたらむずかしい。
悩むおれに、ぐぐっと近づいてくる弟の顔をちょっと押しのけた。
「フツーにおもしろかったから……?」
「から?って、兄ちゃんに聞いてるんだよ!」
弟は、つっぱねてる手ごと、ぐぐっと近づいてきた。
おれがヒョイっと手を離すと、勢いあまって、ガクッと顔から地面に突っ込んでってしまった。
でもすぐ、もーっと言いながら起き上がる。
おれはそれと同時くらいに、うしろへたおれて、足をくんだ。
「難しくてわかんないや」
弟は、一拍だまってから、おれのとなりへ大の字に寝転んだ。
そしたら、弟はガサゴソいいながら、おれのほうを向いてきたので、おれも頭だけ転がして、弟を見る。
「……ごめんね!
兄ちゃんを困らせるつもりはなかったんだよ」
ちょっと申し訳なさそうに言われて、おれは正直たじろいだ。
弟には、おれがふてくされたようにみえたらしい。
「いーよ、気にしてないし」
ヨユーにわらってやると、弟も安心したみたいで、ニコニコした。
もう一回、おれが頭を上へ向かわすと、パピルスも顔を夜空へむける。
真っ暗で、ところどころ穴があいてて、ところどころ濁った雲が流れてる夜空をふたりで見上げて、おれは笑った。
まあまあたのしいからだ。
今夜の夜空は……おれにとって、あんまり綺麗なものじゃないけど、弟にとっては、綺麗でずっと、いきいきしてるんだろうと思う。
「あんがい星も、風にながされるのがたのしいのかもしれないね」
となりから、意外にもマジメな声がきこえてきて、ちょっと驚いたが、その言い草がまるでさっき、弟にポコられながら笑ってたおれみたいに聞こえたので、すぐ返事はできた。
「おれみたいに?」
「……ボクみたいに!だし!」
「へへ。そうだよな」
やっぱり、弟にはあの星が、おれよりずーっと綺麗に見えてるらしい。
弟には、まただ!なんで笑ったの?って聞かれたけど、今度もわからないと言った。
失いたくない。つよく思った。
弟ははしゃいで、草っぱらをまるくクルクル走り、太陽は、弟の楽しそうな笑顔をさわやかに照らす。
弟は、ありあまる体力をぶつけるみたいに、柔らかな土のうえへ両手をついて、逆立ちをした。
「兄ちゃーん!みてみて!」
おれを、ニコニコした顔で呼んで、だけど、そうやって大声をだしたせいで、グラッ、と、体幹が揺れる。
あっと思ったのもつかのま、パサッと草が、倒れ込んだ弟の周りで舞った。
おれはいままで、しりもちついてのんきに座ってたが、ゆっくり立ち上がって、弟のほうへ歩く。
「だいじょうぶか?」
そこそこ大きめの声で呼ぶと、弟がグッドの形にしたてを突き出して「うん!」と、おれよりずっとデカくてハリのある声で言った。
かと思えば、弟はバッと上体を起こして「それより!」なんて、おれのほうを向く。
「さっきの、みた!?ボクすごくなかった!?」
キラッキラ、太陽の光がなくてもきっと輝いて見えるだろうな、っていう顔を、グーっとおれのほうに近づけてくる。
「みたみた。スゴイ立倒だったな」
「兄ちゃん!」
うしろにゴロッとたおれて、足を組んだ。
腕を頭の下にさしいれれば、今にも寝られる最高のだらけポーズの完成。
弟はおれを横目で睨んだ。
で、口を開く。
「立倒って……なに?」
口に、ニヤッときた。
てっきり小言でも言われるのかと思ったけど、そっちか。
でもまあ、そりゃ意味わからんよな、立倒なんてないし。
「立って倒れたから立倒。倒立よりイイ」
弟は、おーの口をして、大きく頷く。
「立倒はわかったぞ!でも……倒立ってなに?」
いちだんと、難しそうな顔しておれに聞いてくる。
また、ニヤッときた。
「逆立ちのことだよ」
「そうか!立倒は倒立で、立倒と倒立は逆立ちとおなじなんだね!クロスワードよりかんたんだ!」
ほんとにかんたんかどうかはおいといて、とにかく、会話はそこで終わった。
なにか、ダジャレかなんかを言おうと思って、顔をうえへ向けると、空が眼前にめいっぱい広がる。
ながれる雲に、めにしみる太陽。
圧倒されてしまって、胸がおしつぶされるカンジを味わった。
空だけで、こんなにかんどうするのはいまのうちかな。かなしいことを思ったが「ふー」
いまの感嘆の息が、たしかにおれからもれたものだから、素直にすごいな、と呟いた。
「兄ちゃんがよくわかんないSF映画以外にそう言う日がくるなんて……!」
「……おれがよくわからないSF映画以外にすごいって言うのも、SFの一種かもな」
「これだからSFはキライッ!よくわかんないもん!」
兄弟みずいらず、草っぱらのうえで寝転んで、いきづく空をみあげて、文句なしのさいこうな世界だ。
うしないたくない。
改めて思った。
5/13 それでもお題は失われた時間なんだよな。