「みて兄ちゃん!星が風にふかれてる!」
ところどころにある、夜空につまようじで穴を開けたみたいな、白い点々をゆびさして、弟がおれを揺らした。
あくびまじりに、弟がゆびさす星をみあげてみるが、別になんのへんてつもない、ただの星だ。
「星だな」
とりあえず言ってみたら、弟は深く頷いて「そうだね!キレイ!」と言った。
さっきの「星が風にふかれてる」とは?
弟の、最高にイケてる思考回路が覗き見れそうだ。
「……なんで起こしたの?」
キョーミホンイで聞いてみたら、弟はハッと思い出したみたいに仰々しくおれを振り返って「そうだ、星が風にふかれてとんでっちゃってるんだってば!たすけてあげなきゃいけないでしょ!」と、まくしたてた。
おれは、もう一回空を見上げてみて、星をじーっとみつめてみた。
そしたらやっと、ちょっとずつ、星が移動しているのがおれにもわかった。
なるほど。
これを、風のせいでとんでっちゃってる、たすけてあげなきゃ!って解釈したんだな。
やっぱり超イケている。
「……なんで起こしたの?」
からかうつもりで言ってやったら、プスーッて顔を赤くした。
「もうッ!やくたたず!」
「へへへ」
ポコられながら笑ってたら、弟はふっと動きをとめて、おれをじっと見つめ出してきた。
じーっと、なんか、怪しむみたいな目で。
「なんだ?なんかついてる?」
うーん、と一声うなって、目をつぶって、また目をあける。
顎にてをそえて、顔だけはこっちへ向けてるが、目は斜め上に向けながら弟がやっと話した。
「兄ちゃん、なんでいま笑ったの?」
と思ったら、クソマジメな顔でめちゃくちゃどうでもいいことを聞いてきた、たまらない。完全におれのツボだ。
「ブッ……へへ、へ、ハハハ!」
「ええ……?なににツボってるのだ、いったい」
……しばらく笑いころげてから、息をついたら、もう一回聞かれた。
しかし、改めてなんでって言われたらむずかしい。
悩むおれに、ぐぐっと近づいてくる弟の顔をちょっと押しのけた。
「フツーにおもしろかったから……?」
「から?って、兄ちゃんに聞いてるんだよ!」
弟は、つっぱねてる手ごと、ぐぐっと近づいてきた。
おれがヒョイっと手を離すと、勢いあまって、ガクッと顔から地面に突っ込んでってしまった。
でもすぐ、もーっと言いながら起き上がる。
おれはそれと同時くらいに、うしろへたおれて、足をくんだ。
「難しくてわかんないや」
弟は、一拍だまってから、おれのとなりへ大の字に寝転んだ。
そしたら、弟はガサゴソいいながら、おれのほうを向いてきたので、おれも頭だけ転がして、弟を見る。
「……ごめんね!
兄ちゃんを困らせるつもりはなかったんだよ」
ちょっと申し訳なさそうに言われて、おれは正直たじろいだ。
弟には、おれがふてくされたようにみえたらしい。
「いーよ、気にしてないし」
ヨユーにわらってやると、弟も安心したみたいで、ニコニコした。
もう一回、おれが頭を上へ向かわすと、パピルスも顔を夜空へむける。
真っ暗で、ところどころ穴があいてて、ところどころ濁った雲が流れてる夜空をふたりで見上げて、おれは笑った。
まあまあたのしいからだ。
今夜の夜空は……おれにとって、あんまり綺麗なものじゃないけど、弟にとっては、綺麗でずっと、いきいきしてるんだろうと思う。
「あんがい星も、風にながされるのがたのしいのかもしれないね」
となりから、意外にもマジメな声がきこえてきて、ちょっと驚いたが、その言い草がまるでさっき、弟にポコられながら笑ってたおれみたいに聞こえたので、すぐ返事はできた。
「おれみたいに?」
「……ボクみたいに!だし!」
「へへ。そうだよな」
やっぱり、弟にはあの星が、おれよりずーっと綺麗に見えてるらしい。
弟には、まただ!なんで笑ったの?って聞かれたけど、今度もわからないと言った。
5/14/2024, 11:07:57 AM