テツオ

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失いたくない。つよく思った。

弟ははしゃいで、草っぱらをまるくクルクル走り、太陽は、弟の楽しそうな笑顔をさわやかに照らす。

弟は、ありあまる体力をぶつけるみたいに、柔らかな土のうえへ両手をついて、逆立ちをした。

「兄ちゃーん!みてみて!」

おれを、ニコニコした顔で呼んで、だけど、そうやって大声をだしたせいで、グラッ、と、体幹が揺れる。
あっと思ったのもつかのま、パサッと草が、倒れ込んだ弟の周りで舞った。

おれはいままで、しりもちついてのんきに座ってたが、ゆっくり立ち上がって、弟のほうへ歩く。

「だいじょうぶか?」

そこそこ大きめの声で呼ぶと、弟がグッドの形にしたてを突き出して「うん!」と、おれよりずっとデカくてハリのある声で言った。

かと思えば、弟はバッと上体を起こして「それより!」なんて、おれのほうを向く。

「さっきの、みた!?ボクすごくなかった!?」

キラッキラ、太陽の光がなくてもきっと輝いて見えるだろうな、っていう顔を、グーっとおれのほうに近づけてくる。

「みたみた。スゴイ立倒だったな」
「兄ちゃん!」

うしろにゴロッとたおれて、足を組んだ。
腕を頭の下にさしいれれば、今にも寝られる最高のだらけポーズの完成。
弟はおれを横目で睨んだ。
で、口を開く。

「立倒って……なに?」

口に、ニヤッときた。
てっきり小言でも言われるのかと思ったけど、そっちか。
でもまあ、そりゃ意味わからんよな、立倒なんてないし。

「立って倒れたから立倒。倒立よりイイ」

弟は、おーの口をして、大きく頷く。

「立倒はわかったぞ!でも……倒立ってなに?」

いちだんと、難しそうな顔しておれに聞いてくる。
また、ニヤッときた。

「逆立ちのことだよ」
「そうか!立倒は倒立で、立倒と倒立は逆立ちとおなじなんだね!クロスワードよりかんたんだ!」

ほんとにかんたんかどうかはおいといて、とにかく、会話はそこで終わった。
なにか、ダジャレかなんかを言おうと思って、顔をうえへ向けると、空が眼前にめいっぱい広がる。

ながれる雲に、めにしみる太陽。
圧倒されてしまって、胸がおしつぶされるカンジを味わった。

空だけで、こんなにかんどうするのはいまのうちかな。かなしいことを思ったが「ふー」
いまの感嘆の息が、たしかにおれからもれたものだから、素直にすごいな、と呟いた。

「兄ちゃんがよくわかんないSF映画以外にそう言う日がくるなんて……!」
「……おれがよくわからないSF映画以外にすごいって言うのも、SFの一種かもな」
「これだからSFはキライッ!よくわかんないもん!」

兄弟みずいらず、草っぱらのうえで寝転んで、いきづく空をみあげて、文句なしのさいこうな世界だ。

うしないたくない。
改めて思った。


5/13 それでもお題は失われた時間なんだよな。

5/13/2024, 2:06:10 PM