街の明かりは家々を灯す。明かりの中で笑う家族もいれば笑い声など忘れてしまった家族もいる。僕の家は後者だった。母は若かった。若さ故か息子である僕に手をあげることが多かった。母はキャバ嬢だった。それ故に精神状態が不安定だったのだと思う。僕が今いる場所は白い天井が見える。そうか此処は病院か。
#この道の先
この道の先には何が待っているのだろう。重く食い込む鞄を背負い,永遠に続くと思われるアスファルトを一歩一歩歩んでいく。日光が直射しているアスファルトは触ったらとても熱そうだ。歩く先には明るい未来が待っている。なんてことはなく,目の前を過ぎる白猫がいるだけだった。まあそんなもんだよな。落胆するわけでもなくずり下がってきていた鞄をもう一度背負いあげる。鞄には大学入試の対策テキストがぎっしり詰まっている。未来は待っているものではなく,自分で手に入れるものなのかもしれない。そう考えたらテキストが幾らか軽く感じられた。
よーし。頑張るか。背に重みを伝えているテキストに助けてもらいながら近くの未来を,夢を叶えたい。
#日差し
日差しが眩しいくらいで寝起きの重たい頭を持ち上げた。昨日の夜遅くまで起きてたのが悪かったかな。昼間なのに堂々と昼寝してしまった。せっかくの休日を無駄にしてしまったと思うけれど,もう過ぎてしまったから仕方ない。窓を開け放ち日差しを全身に浴びて一声。
”よーし今日も頑張る!〟
途端に響く怒鳴り声。いつもの光景の一部になっている。うわー声出し過ぎちゃったかな。まあいいっか。
お気楽な彼は今日も1日を楽しんでいる。
真っ青な青空。大きな羽で悠然と空を翔ぶ鳥を目だけで見送る。今日はとても暑くて身体を起こす気にもなれなかった。頬に伝う汗を緩慢とした仕草で拭い,仕方なしに椅子から腰を浮かせた。凪沙は机の上に重なり頁が折れまくっている教科書をやっとの思いで片付けると充電中のスマホをチラリと見遣った。56%。一先ず50%は貯まった。コードを引っこ抜くとテキストを片手に階下に降りた。炎天下の中に飛び出し,暑いサドルに跨る。垂れる汗をそのままに自転車を飛ばした。空を見上げると窓から見た空より遥かに大きな空が広がっていた。自分が見ている世界はほんの一部分に過ぎないのだ。先程空を翔んだあの鳥はこの何処までも続く空と一体化していた。私も,大きく飛躍したい。何処までも続く空に倣って。