ハンドサインを味方に送り敵陣へ音もなく潜り込む。
二手にわかれるポイントで目配せを交わした。
お互いに言葉はない。
生きて合流するぞと目で語っていた。
【言葉はいらない、ただ・・・】
「よっ大我、久しぶり!」
「翼!?お前なんで?!」
突然の訪問だった。
10年振りに会った親友は「ドッキリ大成功〜」などとこちらの心情などつゆ知らず、ふざけた事を抜かしていた。
「驚いた?驚いたか?」
ニヤニヤと顔を覗き込んでくる翼にイラッとする。
そうだこいつはこういうヤツだった。
大我はため息をつき、肩に腕を回してこようとする翼を手で軽くあしらった。
冷たい対応に不貞腐れる翼をつま先から頭のてっぺんまでまじまじとみる。
高校生の頃はお互い同じくらいの背の高さで毎日どちらが背が高いか競っていたのに、少し会わない間に翼はスラッと背が伸びスーツをかっこよく着こなしている大人になっていた。
羨ましい限りだ。
悲しいことに高校生から成長が止まってしまった大我は無意識のうちに猫背気味の背筋が伸びていた。
「それにしてもお前なんでこっち来たんだよ」
「え〜?やっぱ気になっちゃう感じ??まあ、あれだ...強いて言うなら大我に会いたかったから...とか?」
「お前...今の状況分かってんのかよ!!?」
翼のヘラヘラとした態度に再度苛立たしさが募る。
むしゃくしゃした気持ちをぶちまけてやろうとしたのに出てきたのは涙ばかりで言葉が上手く紡げない。
「なんで...だって...お前まだ」
「まあまあ、落ち着けよ。時間は十分すぎるくらいにあるんだろ?」
しゃがみ込み赤子のように泣きじゃくる大我の隣に腰を下ろし翼は背中を優しく摩った。
「ほら、いい加減泣きやめって。俺初めての場所なんだし色々と案内してくれよ」
立ち上がり案内をしろと言う割にはフラフラと勝手に歩き出す翼を涙が溜まった目で追いかける。
久しぶりに会えた嬉しさと苦しさふたつの感情が混じり合い心が苦しい。
「ばか。まだこっちに来るには早いんだよ...」
親友の頭上に浮いている金色の輪っかを静かに睨み呟いた。
【突然の君の訪問。】
私の日記帳はスマホのアプリだ。
毎日20時決まった時間にその日の出来事や思い出を書き綴る。
ある日私はスマホを落としてしまった。
ゴトッ。と小さな衝撃音に反して当たり所が悪かったのか画面には大きなヒビが入り、画面を立ち上げると数本の線が横に伸びていた。
あーあ。やっちゃった。
明日にでも携帯ショップに行かなきゃ。
新しいスマホを手に入れた。
携帯ショップに行った時間も遅くなり、新しいスマホには19時30分の時刻が表示されていた。
様々なアプリの引き継ぎを終え最後に日記帳アプリを私は立ち上げる
『引き継ぎはこちらから』
今日で何度見たであろう文字をタップし、引き継ぎコードを入力する
『正常に処理できませんでした。
しばらく経ってからもう一度お試しください』
あれ?間違えたかな?
私はもう一度ゆっくりと引き継ぎコードを入力するも失敗に終わった。
「まじか」
何度も入力を試みたが結果は変わらなかった。
仕方なく 『新規の方はこちらから』をタップする
今日の出来事を綴ろうとしたが、ふと思い立ち前日のページへ戻ってみた。
壊れて操作しにくくなりながらも書いた昨日の思い出は白く塗りつぶされていた。
適当な日付に何個か飛んでみたがどこも真っ白な画面が広がるばかりだった。
私はアプリを閉じアンインストールの文字を強く押す。
時刻は間もなく19時50分になろうとしていた。
私は急いでカバンを掴み家を飛び出す。
「こうなったらしかたない。せっかくなら可愛い日記帳買っちゃうもんね!」
【私の日記帳】
「私、大我くんと付き合うことになったんだ」
部活帰り、同じ運動部の仲間の1人が上擦った声をだしながら皆に告白をした
「え!おめでと!」
「まじで!?」
「いつから好きだったの!!」
華の17歳たちはこの手の話題に食い付きがよい
キャーキャー甲高い声を上げながら付き合うまでの経緯を尋問するかのように詰めていく
いつもの私なら輪に加わり仲間と一緒に茶化しを入れていただろうが今回はそれができなかった
私の方がずっと好きだったのに...
中学生の頃から好きだったのだ
話しかけることは恥ずかしくてできなかったけれど、彼を見つめているだけで幸せだった
そう私はただ見つめることしかできなかった
もっと話しかければよかった
そしたら仲良くなれたかもしれない
仲良くなれば告白する勇気が湧いたかもしれない
告白したら私と付き合ってくれたかもしれない
ずるい、羨ましい、悲しい、憎い
様々な感情がぐちゃぐちゃとかき混ぜられていく
【やるせない気持ち】
僕は結構情報通だ
話題のお店、流行りのゲーム実況配信者、昨日バズっていたツイート、クラスの人気者であるあの子の秘密の裏垢
今や誰もが持っているスマートフォン
この約14cm×7cmの箱の中には情報が海のように広がっている
今日の友人との話題はある企業が動画配信サイトに載せたおもしろ企画動画だった
じゃあ明日の話題は?
明日になればまた別の最新の話題で盛り上がることだろう
ネットの海は常に情報という名の波が絶えない
波が消えても新たな波が押し寄せてくる
波に乗れなければ友達との会話についていけないのだ
僕は家に帰るや否やスマートフォンを手に取る
「さあ、今日もネットサーフィンするぞ!」
【海へ】