愛情
自分を産んでくれた両親
同じ時を生きた兄弟
最愛の妻
そして子供
その状況を培った先代達
あぁ
血縁という素晴らしい縁で結ばれた人々に愛情を抱かずにいられない
過ぎ去った日々
夏のとある日
大学の帰路、貴方と私でいつものように一緒に帰る
そこは山の上にある大学で、田舎道を通ってバス停までいく。
竹林の道
ふと麦わら帽子を被った女性を思い出した
蜃気楼の中の入道雲と草木と蝉の声
少しの沈黙のあと彼女は言った
「昨日良い事があったんだ」
「どうしたの?」
「旦那とね、踊ったんだ。ゆっくりとした音楽を流して社交ダンスみたいな感じてさ」
風の音
遠くを見る彼女
その時の彼女の顔を忘れられない
悲しげだけど幸せそうなあの顔を
好きな女性の幸せを心から願った
あの夏とあの景色は特別だ
忘れたくても忘れられない
多分 あの一言は人生の中で一番素晴らしい言葉だったのだろう。今でもその言葉で生きていると言っても過言ではない
大学当時、彼女は近寄り難い存在だった。
美人過ぎてみんなから冷たい印象を与えていたからだ。そしてなにより年上で既婚者だった。
他人との上辺の会話はあるが孤高という存在だった。
私なんかとは一生交わる事もない存在、そんな風に思ってた。
時は経ち、ふとしたきっかけで話すようになる。
彼女と私が同じグループで話すようになり、いつの間にかどんどんと仲は良くなっていつしか二人で並んて話すようになった。
彼女は大抵一人だったが、学校に来るといつも私を探し出してホッとしたように笑顔をくれた。
そんな彼女が眩しくて仕方なかった。
彼女の深い悩みを黙って聴いて適切なアドバイスを繰り返した。
どうか旦那さんと上手くいって彼女が幸せになるように
そんな事しか考えられなかった。
彼女は私を必要としているし、私も彼女に必要とされたかった。
ほんとは大好きだったけど適切なアドバイスをしている人間が倫理を外す事などできず、いつかいなくなる彼女を密かに想ってた。
授業が終わり彼女を車で最寄りの駅まで送る。
その時、急に彼女は改まって話したい事があると言った。
貴方のお陰で私は良い方向に進むことができたの、ありがとね
こちらこそありがとうと伝えたけど
なぜだか泣きそうになった
私がいたから貴方が変われた。
そうそれがその当時の生きる意味だと思った。
彼女とはもう会うことはない
時が経ったがふと思い出す。
友人に付き合ってるの?と尋ねられて顔を赤らめて否定してる私の姿を笑いながら彼女は覗き込む。
あの時 確かに
私がいたから彼女は変わったんだ
高校の放課後
三階の校舎の窓越しから彼女を眺めてた
どうかこの想いが貴方に伝わりますように
密かな片想い
いま思うと想いが伝わって何が変わると言う訳ではないが、あの当時はその密かな自分だけの想いが何よりも神聖で崇高な事に思えた。
いつか二人で帰れたら、なんて人生は素晴らしいものになるんだろう。
そんな想いで眺めてた
その刹那 あの人がふと窓越しの私を見つけて
目が合った
その全てを見透かした眼差しに私は畏れ慄き
さっと身を隠した
私の妄想が全てがばれてしまったのだ
あぁ 随分と時が経ったがあの人の事は今でも思い出す。
いつも唐突にあの人が夢に出てくるからだ。
その後、色んな女性と知り合って結婚もしたが
今でもあの人の夢をみる
いつもこれからの二人の未来の物語だ
その夢を憶えている日はなぜだかいつも泣きそうになる
そうだ
あの時からだ
そしてこれからも
私の罪の全てを見透かしたあの目に私はこれから一生逃れることはできない
次にあったら今日の答えをきちんと話そう
真剣に言葉にして目を見て伝えよう
そんな覚悟で連絡したけど、もう音沙汰すらなかった。
会えると思ってた数年間、もう会えないのに夢だけ追っていた自分はつくづく幸せなひとだと痛感した。そしてやっとその数年の無意味な妄想に膝をつく