刹那
刹那は一瞬であり、
その一瞬の中に、
喜びも、哀しみも、痛みも、愛情も、美しさも、
この世界に存在する、有形無形、ありとあらゆるものが、その中に宿る。
とかく人は、
常に永遠を求め、答えを探ろうとする。
束の間の一瞬の中に見た世界、
抱いた感情こそが、
もしかしたら永遠なのかも知れない。
ソンへ
カーテン
カーテンが風に揺れる姿が好きだ。
こちらと、
こちらから見た向こう側との、
その境目にあるものを、
その狭間にある記憶の一つ一つを、
フワリと丁寧に紡いで届けてくれるようで。
フワリとなびいた時の、
さらわれてゆく空気の優しさ動きも。
ソンへ
たそがれ
黄昏の頃合いになると、
空がオレンジ色に染まり、
淡いラベンダーや薄紫に染まり、
美しい色の絵が描かれ、宵闇に染まってゆく。
幾つもの美しく優しい色に染まった空は、
少しずつ溶けて、
人の心の中にそっと沁みこむ。
優しくて、
切なくて、
世界の中で、
自分だけが取り残されたような切なさと、
それは同時に、
この世界に、たった一人しかいない自分という存在へ向けて、空がそっと頬を撫でてくれるような、
そんな真綿のような優しさを運んでくれる。
黄昏に染まる時間は、
空から私達へのプレゼントなのだと、思う。
世界中の人が、
黄昏の頃合いに、
染まりゆく空を同時に眺めているとき、
きっとその瞬間だけは、
憎しみも、争いも、嫉妬も、偏見も、
人の心の中に巣食うあらゆる醜さも、傲慢も、
きっと溶けてなくなっている。
その優しさを胸に抱く瞬間、
私も、世界も、かけがえのない存在だと気付く。
ソンへ
ジャングルジム
子供の頃、遊び場にある数ある遊具の中で、
ジャングルジムが一番好きだった。
ジャングルジムという存在が、
そこにあること、
空間に存在している事への言いようのないドキドキ感。
「ジャングルジム」という言葉の、
冒険心を強く刺激する、その響き、
あの幾何学デザインの不思議なダイナミックさ、
空間の中に悠然と存在する姿…
ジャングルジムは、
子供の私の中でとても美しい存在だった。
そして、
実際に遊ぶ楽しさが好きよりも、
その姿を見ている方が好きだったのだと思う。
今、
ジャングルジムのてっぺんに登って、
暮れてゆく夕暮れの空を眺めたい。
ソンへ
花畑
朝靄の立ち込める、恐ろしいほどに澄んだ空気と、静まりかえった空気の中、聞こえてくるのは、時折響く、虚空を切り裂くような高らかで鋭い鳥の鳴き声と、深淵を覗きこむような清らかな水の音。草花達はまだ寝息を立て、全てがまだ眠りについている。あらゆる邪気の一切を削ぎ落としたような青と、ダイヤモンドの原石のような緑と、乳白色の白を溶かして流したような夜明けの色。その透明な美しい水晶のような森を抜けると、色鮮やかな花畑が果てしなく広がっている。ある日、そんな場所に偶然迷い込み、訪れる事などできはしないなどとは、そんな場所がありはしないなどとは、どうして言えるだろうか。そんな、静謐であらゆる美しさを手のひらで掬い集めたような場所へ、偶然迷い込んでしまいたい。
ソンへ