後悔していることがある。
それはとても些細なことで、覚えておこうとしなければすぐに忘れ去ってしまえるようなこと。
だからこそ、ここに記録しておこうと思う。
途中までそれは、自分の手の中に確かにあった。
あとはそのまま送り出せばよかったのだ。
それなのに、何かが腑に落ちなくて、考え込んでしまった。
先にも述べたが本当に些細なことだった。
気晴らしに他のことに意識を向けた途端、手の中から零れ落ちてしまうほどの、僅かな執着だった。
あのまま、不格好でも、送り出してしまえばよかった。
それなのに気付いたときには、全てが真っ白になっていた。
そして、新たなお題を見て息を呑む。
「これからも、ずっと」のあとが「誰よりも、ずっと」だなんて。
こんなお題、二部作にしたらどれだけ楽しかっただろうか。
不格好なままでも送り出していれば、ここで納得できる形に出来たかもしれない。
そんなことを考えても何も変わらないのに、そればかりを悔やむ。
だからせめて、もう後悔をしないように、こんなしょうもない後悔を送り出す。
いつだったか君は、目で語る人が好きだと言った。
言葉で伝えることも大切だけど、その奥に感情が見える目が好きだとも。
言葉で語るのが苦手な僕は、それを聞いて安心したような怖いような、よくわからない気持ちになった。
伝えなければ、伝わらない。そんな当たり前のことが出来なくていつも悩んでいる僕の気持ちを、君は拾ってくれるのだろうか。
それともそんな当たり前のことすら出来ない僕の目では、結局君に何も伝えられずにいるのだろうか。
自分の目のことなんて、自分と向き合う鏡でしか見たことがないからわからない。
君に伝えたいことはいつだってたくさんある。
空が綺麗だとか、レシートの合計金額がゾロ目だったとか、どうってことない些細なことも。
君の温かさも、真剣な横顔もおどけた笑顔も愛おしいだとか、僕にとって本当に大切なことも。
伝えたくて、たどたどしく話す僕を、君はいつも微笑みながら待っていてくれる。
君の目を見つめると、気恥ずかしくてすぐに逸らしてしまうけど。
僕の目を見つめて微笑んでくれる君こそ、その目で雄弁に語るから。
君に応えたくて、僕は今日も想いを紡ぐ。
大事なことを決めるときは、太陽の下で考えなさい。
暗い夜に考えてもろくなことにならないから。
そういう話を聞いたことがある。
太陽は好きだ。朝日も真昼の太陽も夕日も好きだ。
夏のうだるような暑さと湿度が嫌いだけど、肌が焦げていくような気さえする太陽の強さが好きだ。
だから自分にとっては、大事なことを太陽の下で考えるのは良いことだと思う。
夜に考えることがろくなものではないのも、まぁわかる。
それでも、同じ夜でも、星空の下でならどうだろう。
ろくなことにならない思考の中で、遠くに星を見つけたなら希望にならないだろうか。
強く輝く太陽は確かに力をくれるけど、優しく寄り添うような光を放つ星々からも勇気をもらえないだろうか。
結局のところ、明るいところで考えろ。という話かもしれないけれど。
「それでいい」と「それがいい」は、似ているようで実際は結構違う。
「それがいい」なら確固たる意思を持って選んだように思えるけれど、「それでいい」ならある程度の妥協を感じる。
人のために作った夕飯を「それでいい」なんて言われたら、二度と作ってやるものかとさえ思うだろう。選ばれるなら「それがいい」がいい。
「それでいい」と「それでもいい」ならどうだろう。
似ていることは似ているけれど、こちらの方が意味合いの違いは大きい気がする。
腕を組んだスポーツの指導者が難しい顔で「それでいい」と言ったなら、褒めているとか、納得のいく出来だとか、そういうニュアンスに思える。
しかし同じ状況で「それでもいい」と言われたら、じゃあ何が正解なんだと返したくなる。もちろん夕飯に「それでもいい」と言われたら、じゃあ自分で作れと返すだろう。
一文字違いの言葉選び。
「それがいい」ほどの強さがなくても、「それでいい」に寛容さを感じる。
それでいいような気がする。
君の声が聞きたい。
ただそれだけの願いだった。
人は人を忘れるとき、その人の声から忘れると聞く。
それならあの事故から目を覚まさない君の声を、僕はいつまで覚えていられるだろうか。
君の声を、忘れることが怖かった。
目を開けないだけで君は、こんなにも近くにいるのに。
君の声を忘れることは、君のことを忘れてしまうことに等しいような気がして。それがとてつもなく恐ろしかった。
だから、1つだけ。僕の願いが叶うなら。
君の声が聞きたかった。
君の声で、僕の名前を呼んで欲しかった。
君に、気付いて欲しかった。
長い時間の後、君が突然目を覚ました。
長く眠っていた事に戸惑いはあれど、ころころ変わる表情は昔のままで。放っておけなくて、目を離せなくて。
だから君に、何も言えなくなった。
君は僕の想いを知らないから。
本当は1つだけだったんだ。君の声が聞きたい、ただそれだけだった。
でもそれ以上を望んでしまう僕は、君のそばにはいられない。
また会えたら、その時には伝えるから。
その言葉すら飲み込んで、僕はさよならの代わりに君の名前を呼んだ。