君の声が聞きたい。
ただそれだけの願いだった。
人は人を忘れるとき、その人の声から忘れると聞く。
それならあの事故から目を覚まさない君の声を、僕はいつまで覚えていられるだろうか。
君の声を、忘れることが怖かった。
目を開けないだけで君は、こんなにも近くにいるのに。
君の声を忘れることは、君のことを忘れてしまうことに等しいような気がして。それがとてつもなく恐ろしかった。
だから、1つだけ。僕の願いが叶うなら。
君の声が聞きたかった。
君の声で、僕の名前を呼んで欲しかった。
君に、気付いて欲しかった。
長い時間の後、君が突然目を覚ました。
長く眠っていた事に戸惑いはあれど、ころころ変わる表情は昔のままで。放っておけなくて、目を離せなくて。
だから君に、何も言えなくなった。
君は僕の想いを知らないから。
本当は1つだけだったんだ。君の声が聞きたい、ただそれだけだった。
でもそれ以上を望んでしまう僕は、君のそばにはいられない。
また会えたら、その時には伝えるから。
その言葉すら飲み込んで、僕はさよならの代わりに君の名前を呼んだ。
4/4/2023, 10:06:27 AM