冬至 乃明

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2/2/2024, 1:30:16 PM

13歳の春休み、僕はおばあさんの家に帰った。
おじいさんが運転する白い軽トラックには、田んぼからの泥っぽく青臭い匂い風が絶えず流れていた。
「それにしても、えっらいおおきくなったじ」
「そうかな」
風は強いけれど、のどかな田舎道でおじいさんの声は快活だ。おじいさんは、僕の知る中で、一番元気でやんちゃな人だ。僕はなんだか、久しぶりに僕に
なった気がして、自然と大きな声になった。

今日は暖かな明るい春休み。おばあさんの家の庭は以前にもまして、のびのびと草花が茂っていて、ぽやぽやと輝いている。僕はモネの風景画を思い浮か
べた。
おばあさんは、ずいぶん小さくなっていた。僕が軽トラから降りると、縁側の奥の薄暗い部屋から庭に降りてきて、僕の荷物を受け取ると二階にいってしまった。僕は明るい庭に立ち尽くした。おじいさんの声と知らないおじいさんの声が遠くの方で聞こえる。蝶が目の前を横切った。

転校したのは小学校3年生の夏だった。僕は半袖で黒いランドセルを背負って軽トラックの前にいる。
その時、青いワンピースの少女が現れる。少女は僕を不思議そうな目でみつめながら、坂道を下ってゆく。駆け足で、颯爽と。

「松苗さんは本当に…わっはっははは」
おじいさんの声が一段と大きくなった。振り返ると、おじいさんは坂道を少し下ったところにいて、塀の近くのサザンカの木の合間にちょうど顔が覗いてみえた。おじいさんは松苗さん(?)と話している。

おばあさんが夕飯に呼んだから、僕は玄関にいった。玄関で僕はまた、たち止まった。ここでバーベキューをしたこともある。あの夏の匂い。焼肉のタレの甘辛い、けむ臭い匂い。蝉の声。

目を閉じて夏のあの日を思い出す。さようならバーベキュー、僕は転校してしまった。青いワンピースの女の子は茣蓙に座らずに、ボールで遊んでいた。

ぺんてんぺんてん 白いうさぎは野山の隅で 今日の晩飯つくってる 赤いうさぎは野山の陰で …

ぺんてんぺんてんと、ボールの音が聞こえてきて、目をあけると、家の向かいの道にあの子がいた。あの日の少女だ。

「松苗さん…」
僕の声は発せられただろうか? 彼女はまだ、ぺんてんと、ボールを叩く。
「松苗さん、あのね…」
ボールが彼女のサンダルにあたって、跳ねた。僕の方にトントンと転げてきたので、屈んでボールを拾いあげた。
 
ゴム製の少し重たいボール。僕の手は震えている。西日が強くて何も見えない。これは、幼い頃の僕のボールだ。これでよく遊んだ。毎日遊んだ。煤けているところは、もしかしてバーベキューの煙?

少し笑いながら、立ち上がると、彼女はいなかった。いなかった。

庭から溢れて、覆うようにゆれる青い花が、僕を西日から守る。彼女らは、もうじき枯れてしまう。
僕は日陰に逃げ込んで、夏まで生きよう。青いワンピースの夏まで…

【勿忘草】

2/1/2024, 10:43:56 AM

鳥をみて
蝶をみて
ブランコにのる

空は私を抱いて
これは ゆりかご

鼻がツンとして
風が頬を舐めてくる

鎖を握って
大きく地面を蹴った
私、何年も生きたのに
まだ空もとべない

1/31/2024, 10:48:50 AM

私が誰か知りたいのなら
汽車に乗りましょう
ゆけゆけ汽車よ 何処までも
知らない田舎の夜桜
知ってる都会のよそよそしさ

私はただ眺めている
走りゆく汽車の
窓に私の顔は
ぼんやり浮かんで
それがもう誰か
誰もわかりゃしない

私は私は
何かにぶつかりたくなくて
りゅうりゅうと風を聴きながら
方向もなく
道もなく
闇夜と昼間の幻想をすり抜けていく

雪をかぶった山々は
あの白山に負けている

高慢さを感じる人々は
あの故郷の気性に似合わない

旅路の果てに
病に倒れ
一杯の野水を求める間に
命は枯れる

プラットフォームに
旅人は眠っている

1/30/2024, 10:31:36 AM

あなたの決意の理由を
私が届けたい

小さなあなたの双肩を押す
力のこもった詠唱

あなたは私の中で
常に真実だ

真っ黒な髪の毛と
すんとした鼻だち
小さな歯並び

貴女の瞳から落れる涙の
一雫
貴女のくしゃっとした
笑み
貴女の言葉の
一枚一枚

今 
顔をきりっと引き締めて
額に青空をくくる

さあ風は吹く

私は貴女をまっすぐにみていよう

1/29/2024, 10:55:48 AM

ガトーショコラに
I LOVE

熱で
溶ける
LOVE

痩せた手で
がつがつ食う
LOVE

高貴な匂いに
舌なめずり

LOVEは汚く
遊ばれる

貴方もそれを望んでる

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