昔の家の
広い庭に
小さな私は
小さな小さな青い花をつんで
ぴょこぴょこ動いて
笑っている
その花がいつの間にか
夏のホコリになって
車に閉じ込められて
やがて駅に流れてゆき
雑踏の中
スーツケースの毛玉になったりして
やがて日本海を北上し
空に舞って千切れて
大きくなった私のもとに
雪となってふわふわふってきてくれる
【優しさ】
私はいつもいつもつまらないことをしている
夜遅くなっても
なんにも怖くない
夜遅くなっても
なんとも感じない
ただ無機質になる
時計の鼓動に触れて
温かな居間で
空っぽの機械を
何かで満たそうと
一生懸命に努力している
私は虚しくて虚しくて
首が氷のように冷たい
私は苦しくて悔しくて
外に飛び出して消えてしまいたい
本当の冬の夜に熔けて
小さな羽虫になってみたい
不安の種はそこら辺に沢山あって
私はそれにいちいちつまずく
私の目から警戒心が覗き
私の口はひくひく動く
視界はなんだか狭まって
足どり重く内股になる
安心の種は目に見えなくて
花粉のように漂っている
私はそれを空気のように
すうすうすって
時々大きなくしゃみをする
私の鼻が良くなれば
少しは匂いもするのでしょうか
ほのかに甘い香りが
雪が降っていた
障子は
半分開け放たれている
星夜のなかを
雪はひかって飛んでくる
妙に気味の悪い
ひょうひょうと雪吹雪
いつもより大きな居間の時計
緑の針が3時指す
青く明るい闇吹雪
庭で騒ぐ竹のお囃子
心乱れるものの影
不気味な昼間のように人気なく
常夜に私は取り残されて
旧家連なる路地の中
黛の細道を
ただ雪のみが降るばかり
青くひかって降るばかり
【こんな夢をみた】
月の出を迎えた夜です
静寂の夜です
ここにありますのは
新品のタイムマシーンです
あなた乗ります?
少し風が吹きますわ では良い旅を
私の顔の上を一輪の風が戯れていった
見覚えのある 何も知らない街
黒く透明な人は金魚
ブルーのカバーがかかっている風景です
月が雲のなかをお酔いでいます
のんびりとのんびりとお酔いでいます
ここは朝です
早朝です
すでに死んだ朝です