犀川のほとりで 誰かが
顔を覆うように手のひらをみつめていました
不意に立ち上がった彼の人は
月光を浴びて 細くて美しいのです
若緑の着物を着ています
首は青白くて折れそうです
手のひらを月に透かす彼の人は
白い幸せの中 ばったり倒れそうです
くずおれてしまった彼の人が
それでもなお食い入るようにみつめなさる手は
抑えようもなく小刻みに震えています
私はそっと近づいて顔をみたいのです
けれど月が睨んで 私がゆくのを拒むのです
心狂い躍る
特別な夜のことです
海の底にはピアノが1台おります
そこで静かに奏でております
私の心が沈んでいれば
かすかにそれがきこえます
深い深い息のようです
低く唸ったメロディです
艷やかな鍵盤に
そっと手を触れてはいけません
金のペダルをおしてはいけません
声を掛けるのもだめです
拍手もいりません
てとてと
古い日記から 音が聴こえる
てとてと ころん
あの子の足音
てと…てと… ぽた
あたしの涙
てとんてとん しゃー
夕暮れの電車
私の綴った欠片の記憶
私が見て 私が見るだけ
ガラクタの宝物
すぐに捨ててしまおうか
そう考えるだけで
また、色濃く残る
私の瞼の裏に色濃く映り
私の頭をほんのり 縛る
この世界は美しい
息を潜めて じっとしててごらん
意味がない と
あなたは思うでしょう
あの木々が揺れることと
私の腹が満たされるのに
一体なんの関係がありますか
教えてよ
本当は意味なんてないんでしょ
不公平 と
あなたは思うでしょう
あの娘は母を失ったのに
私は母を世話して暮らしています
私は泣いていないから
あの娘より幸せなのでしょ
残酷 と
あなたは思うでしょう
人は数で大きさをはかる
でも殺された象が抱えた
苦しみの大きさは
人の数より大きいでしょ
儚い と
あなたは思うでしょう
あの人には夢があった
沢山の人が同じ夢をみた
けど一瞬だけだったでしょ
色んな世界を見てきたが
どれもチグハグ
何が真実か
どれがふさわしいか
太陽にまどろんで
寝そべってみたら
青空に何も無い
あ、やっぱりこの世界は …
どうして 変な顔をしてるの
どうして 怖い冗談をいうの
どうして 泣いて本を読むの
どうして 苦しい勉強をするの
どうして 辛いものを食べるの
どうして あの時振り向いたの…?
全部あなたの魅力
すべてあなたの過去から
私に向かってダイレクトメッセージ