おへやぐらし

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5/2/2024, 5:00:09 PM

高級住宅街のとある一軒家に
訪問販売に訪れたA

「この間買った浄水器、
もうすっごく良くて愛用してるわよ」
「ありがとうございます」

この家に暮らす奥様はいつも
ニコニコとしている優しいご婦人だ。
この仕事は行く先々で嫌がられる事も多いのだが、
奥様は親切に迎え入れてくれて、
商品を購入してくれた。
今はこうしてお茶とお菓子までいただいている。

ふと、庭の方に視線を向けると、子どもがいた。
窓ガラス越しにこちらをじっと見つめている。
ボサボサの髪にヨレヨレの服、薄汚れた肌、
おそらく何日も風呂に入っていない。

「あ、あの」
「ん?どうしたの?」
「外に子どもがいます」
「あーあれね、気にしなくていいのよ!」

パンフレットに視線を向けたまま
明るい口調で話す奥様。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「すみません、御手洗を借りてもいいですか?」
「どうぞー、そこ奥入って右にあるからね」

暗い廊下を進むと先程の子どもが蹲っていた。

「ひっ」

こちらを見上げる真っ黒な瞳。
よく見ると顔や体に細かい傷跡が
たくさんできている。

「きみ、大丈夫……」

手を伸ばそうとすれば、
ガシッ!と何かに腕を掴まれる。
横目で見やると、奥様が真顔で立っていた。

「優しくしないで」
「え」
「それに優しくしないでね」

そして、奥様はいつものように笑ってみせた。

お題「優しくしないで」

4/26/2024, 5:00:15 PM

天使と悪魔

あたしの家には天使さんと悪魔さん
が暮らしている。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
~Temperance~

👼「化学調味料は悪魔の食材!特に味の素!
あんなもの食べたら地獄に落ちるわよ!」

天使さんは自然派。
だから外食なんて行った事ない。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
~Gluttony~

悪魔さんの部屋にはコーラやポテチなど
たくさんのお菓子が用意されている。

😈「好きなだけ食べていいよ」

ゴクゴク、パリッ、モグモグ
おいしい。

炭酸もスナック菓子もこんなに
おいしい食べ物なんて知らなかった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
~Lust~

悲しい事があった日には

😈「どしたん?話聞こか?」

悪魔さんはそっとあたしを
抱きしめてベッドで慰めてくれた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
~Chastity~

👼「あなたの部屋のゴミ箱にこんな物が入ってたわよ。なんて汚らわしい!」

勝手に部屋入んな。

👼「私のいい子はどこへ行ってしまったの?」

あーもう、うるさいなあ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
~Wrath~

あたしの赤く汚れた手や服を見て
悪魔さんは笑った。

😈「君は本当に悪い子だ」

お題「善悪」

3/24/2024, 1:56:58 PM

少年は雨宿りしていた。
ここは田舎のバス停だから
1時間に1本しかバスが来ない。

曇天の空を眺めていると、
いつの間にか隣に少女が座っていた。
艶やかな黒髪と白いセーラー服を着た
きれいな少女だった。

「雨、やみそうにないですね」
「そうですね」
「あの日も」
「はい?」
「あの日もこんな風に雨が降っていました。
ここでバスを待っていると、知らない
おじさんが近付いてきて…あの時はほんとうに
怖かったなあ、痛かったなあ」

いつの間にか少女は水に浸かったようにびしょ濡れ
の姿になり、彼女の足元には水溜まりができていた

彼女と話していると、バスが到着していた。
乗客も運転手もみんな青白い顔で俯いている。

「それじゃあ私、いきますね」
「はい…気をつけて」

彼女が乗ったのを見送ってからすぐに
次のバスがやってきた。

少年は先程まで少女が座っていた場所を見つめた。
そこはシミができたみたいにぐっしょり濡れていた。

お題「ところにより雨」

3/21/2024, 2:30:31 PM

とある密室にて
白骨化した二つの遺体と一枚のメモが残されていた

だいすきだよ
れんあいじゃなくてもいい
かならずしもね
ただそばにいてほしいだけ
すきなあいてとなら
けっしてはなれない
てつなごうよ

お題「二人ぼっち」

3/18/2024, 3:56:27 AM

「おはよう」

隣の席のSが笑顔で話しかけてくる。
咄嗟に返そうと思ったけど声が出なくて、
そのまま俯いてしまった。

物心ついた頃から自分はおかしなやつだと気付いた。
自分では普通だと思っていたけど、周りの人たちは
「あの子はおかしい」「病気」だと話していた。

母はそんな自分を心配して病院に連れて行って
くれたりしたが何も変わらなかった。

ある時から持ち物がなくなっていたり、
丸めた紙をぶつけられたり、
小さな嫌がらせをされるようになった。

多分こんな自分に周囲の人達が腹を立てたのだろう。

仲間に囲まれながらこちらを見て笑うS。
自分もあんな風に笑えたらな。

「さあ、今日も始めるか!」

放課後にN先生と二人で挨拶の練習をする。
クラスで自己紹介の時に、何も話せなかった自分を見た先生は、こうしてよく話かけてくるようになった。

「まずは挨拶からだな。挨拶は基本中の基本だ!」

普通の人間のように接してくれるN先生との時間は
とても心地よかった。

Mができるようになるまで練習に付き合う、そう言ってくれた先生はある日を境に学校へ来なくなった。

下駄箱から消えた靴を探しているとSに出会った。
初めて挨拶してくれた時と変わらぬ笑顔でこちらへ近付いてくるSを見て、何故だか逃げ出したくなった。

┈┈┈┈┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「泣けよ」

馬乗りになったSに見下ろされる。

「どうして泣かないの?」

こんな事されてるのに。

泣かないんじゃくて泣けないんだ。
そんなことを考えながら、
ぼんやりと天井を眺めていた。

お題「泣かないよ」

(※ 「もっと知りたい」と話が繋がっています)

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