「おはよう」
隣の席のSが笑顔で話しかけてくる。
咄嗟に返そうと思ったけど声が出なくて
そのまま俯いてしまった。
物心ついた頃から自分はおかしなやつだと気付いた。
自分では普通だと思っていたけど、周りの人たちは
「あの子はおかしい」「病気」だと話していた。
母はそんな自分を心配して病院に連れて行って
くれたりしたが何も変わらなかった。
ある時から持ち物がなくなっていたり、
丸めた紙をぶつけられたり、
小さな嫌がらせをされるようになった。
多分こんな自分に周囲の人達が腹を立てたのだろう。
仲間に囲まれながらこちらを見て笑うS。
自分もあんな風に笑えたらな。
「さあ、今日も始めるか!」
放課後にN先生と二人で挨拶の練習をする。
クラスで自己紹介の時に、何も話せなかった自分を見た先生は、こうしてよく話かけてくるようになった。
「まずは挨拶からだな。挨拶は人間関係の基本だ!」
普通の人間のように接してくれるN先生との時間は
とても心地よかった。
Mができるようになるまで練習に付き合う、そう言ってくれた先生はある日を境に学校へ来なくなった。
下駄箱から消えた靴を探しているとSに出会った。
初めて挨拶してくれた時と変わらぬ笑顔でこちらへ近付いてくるSを見て、何故だか逃げ出したくなった。
┈┈┈┈┈┈┈┈
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「泣けよ」
馬乗りになったSに見下ろされる。
「どうして泣かないの?」
こんな事されてるのに。
泣かないんじゃくて泣けないんだ。
そんなことを考えながら
ぼんやりと天井を眺めていた。
お題「泣かないよ」
3/18/2024, 3:56:27 AM