おへやぐらし

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2/5/2024, 2:33:38 PM

物心ついたときから『心のコップ』が見えた。
形も大きさも深さも人によってばらばらだ。

部長のコップを見るとグツグツと
赤い液体が煮えたぎっていた、

部長は機嫌が悪いと、物を投げたり
皆の前で怒鳴りつけたりする。
今日は自分の番だ。

「部長、今朝から機嫌悪いよね」

心配そうに声をかけてきてくれたのはBさん。
いつも周りを気にかけてくれる人だ 。

Bさんのコップを見れば、
ふちすれすれまで液体が溜まっている。
翌日からBさんは職場に来なくなった。

この職場は"いい人"からいなくなる。
残っているのは相当タフな人か変わり者だけ
自分もその変わり者の一人だ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「大丈夫?」

目が覚めると心配そうにこちらを覗くCさんがいた。
ズキズキする頭をおさえながら先程の事を思い出す。

飲み会で部長に一気飲みを強要されて、
酒を煽った自分はそのまま意識を失ったらしい。

介抱してくれたCさんに謝罪とお礼を述べると、
気にした様子もなくニコニコとしていた。

自分はこの人が苦手だ。
わかりやすい部長の方がマシだと思えるくらい。

人懐こくて表情豊かで人気者のCさん。
そのコップの中身はいつも空っぽだ。

赤ん坊に犬や猫、鳥や魚にだって
多少なりとも感情の液体が入ってるのに、
この人の中にはそれがない 。

こちらに伸びてくる手を反射的に振り払ってしまう。
見上げるとCさんは笑っていた。

空っぽだったCさんのコップの底に
液体が溜まり、ついには溢れ出した。

お題「溢れる気持ち」

2/1/2024, 12:15:21 PM

夜の公園で私は一人ブランコを漕いでいた。
錆び付いたブランコがキーキーと音をたてる。

なんでこんな場所にいるんだろう。
あ、思い出した。
友だちにゴロゴロコミックを貸してもらうんだった。
まだかな…ずっと待っている気がする。

ぼーっとしていると、
知らない大人がこちらへ近づいてきた。

その姿にびくっと体がこわばった。
なんでこんなに怯えているんだろう。

その人は私にこう言った。
「もうここにいなくていいんだよ。
あるべきところへおかえり」

…ああ、そうだった。
わたしは大切なことを忘れていた。

それから誰もいない夜の公園で
ブランコがひとりでに動くことはなくなった。

お題「ブランコ」

1/31/2024, 5:03:09 PM

旅先で行方不明になった妻を探すために、
仕事も辞め捜索に明け暮れる日々を送っていました。

現地の警察にも相談して、
彼女が行きそうな場所はくまなく探しましたが、
一向に手がかりが掴めません。

途方もなく町を歩いていると、
とある見世物小屋を見つけました。

私は何か惹き付けられるものがあり、
興味本位で中へ入ってみることにしました。

そこにはステージ上で踊る猫と
それを見て歓声をあげる人々がいました。

キピキピキャパキャパルビルビラバラバ♪

あれは猫…いや、人間?
私は目を見張りました。

はっぴはっぴはっぴぃ♪はぴはぴはぴはぴはぴぃ♫

見間違えるはずがありません。
そこには狂ったように飛び跳ね踊る
妻がいたのです。

その姿は私が今まで見た中で、
一番美しく愛らしかったのでした。

お題「旅路の果てに」

1/27/2024, 12:27:01 PM

お母さんは優しい人だ。
いつも私以上に私のことを考えてくれる。

「お菓子には添加物が入っていて
体に悪いから食べてはダメ」

「いかがわしい本を読んではだめ。
全部 捨てておいたからね」

「ゲームは頭が悪くなるから買いません。
将来のために勉強しなさい」

「そんな相手と付き合ってはだめ。
この先きっと後悔するよ」

「勉強して、いい学校、いい会社に入って
お母さんを早く安心させてちょうだい」

「みんなあなたのためを思ってのことよ」

お母さん
今までありがとう。

私は今日ようやく
あなたの優しさから解放される。

お題「優しさ」

1/25/2024, 10:58:13 AM

白い病室
風になびく白いカーテン
窓の外を眺める私
振り返れば笑顔の彼が立っていた

窓から落ちて頭を強く打った私
一命は取り留めたが
すべてを忘れてしまった

私はどうやら天涯孤独なようで
連絡先は彼の他に誰もいなかった

擦り傷切り傷痣火傷
ボロボロな私の体を
優しく抱きしめてくれた彼

窓辺に飾られた白い椿の花がきれい
彼が私に贈ってくれた大切な花

彼に見つめられると
心がざわついて胸がドキドキする

私たちはきっと
深く愛し合っていたのだろう

何も思い出せないけれど
彼がいてくれたら安心

お題「安心と不安」

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