物心ついたときから『心のコップ』が見えた。
形も大きさも深さも人によってばらばらだ。
部長のコップを見るとグツグツと
赤い液体が煮えたぎっていた、
部長は機嫌が悪いと、物を投げたり
皆の前で怒鳴りつけたりする。
今日は自分の番だ。
「部長、今朝から機嫌悪いよね」
心配そうに声をかけてきてくれたのはBさん。
いつも周りを気にかけてくれる人だ 。
Bさんのコップを見れば、
ふちすれすれまで液体が溜まっている。
翌日からBさんは職場に来なくなった。
この職場は"いい人"からいなくなる。
残っているのは相当タフな人か変わり者だけ
自分もその変わり者の一人だ。
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「大丈夫?」
目が覚めると心配そうにこちらを覗くCさんがいた。
ズキズキする頭をおさえながら先程の事を思い出す。
飲み会で部長に一気飲みを強要されて、
酒を煽った自分はそのまま意識を失ったらしい。
介抱してくれたCさんに謝罪とお礼を述べると、
気にした様子もなくニコニコとしていた。
自分はこの人が苦手だ。
わかりやすい部長の方がマシだと思えるくらい。
人懐こくて表情豊かで人気者のCさん。
そのコップの中身はいつも空っぽだ。
赤ん坊に犬や猫、鳥や魚にだって
多少なりとも感情の液体が入ってるのに、
この人の中にはそれがない 。
こちらに伸びてくる手を反射的に振り払ってしまう。
見上げるとCさんは笑っていた。
空っぽだったCさんのコップの底に
液体が溜まり、ついには溢れ出した。
お題「溢れる気持ち」
2/5/2024, 2:33:38 PM