明日、もし晴れたら海に行こう。
それで冷たいラムネでも買って波打ち際で遊ぼうか。
人が多くて嫌だと君はそっけなく返答する。
そうかそうか、それならプールはどうだい?
変わらないじゃない!と拗ねた顔。
うーんそれじゃ、川に行こうか。
どうしてそんなに水辺にこだわるの!と不機嫌に。
どうしてって簡単さ。
無邪気にはしゃぐ君が見たいだけだよ!
そう言えばじゃない!と照れたパンチ。
だって君は猫みたいにお布団から動かないんだから。
たまには僕と遊んでよ、愛しの黒猫さん。
18.『明日、もし晴れたら』
痛いのは嫌。だから喧嘩はしなかった。
苦しいのは嫌。だから恋はしなかった。
辛いのは嫌。だから甘いものばっか食べた。
つらいのは嫌。だから期待しなかった。
そうしていたらみんなが心配した。
何か辛いことがあるのかとか、
嫌なことがあるのかとか、
家で何かあったのかとか。
何もない、何もないから優しくしないでほしかった。
知らない、知らないからこっちを見ないでほしかった。
隠していたかったことも、見ないふりをしていたことも
みんなが暴いていく。みんなが晒していく!
可哀想なものを見る目で見ないでよ。
無意味な言葉をかけないでよ。
誰一人だって私のことを助けてくれなかったくせに!!
過去に負った未だ癒えないこの傷を触らないで。
やめてよ、痛いんだよ。
だから、
私は、
一人でいたいのに。
17.『だから、一人でいたい』
夏休みになるとどこに行ってもいる。大変申し訳無いがそれがとても憂鬱で、夏休みなんて早く過ぎ去ってくれと思ってしまう。
デパート、スーパー、コンビニ、カフェ、レストラン。どこに行っても逃げ場はない。勘弁してくれと降参気味にイヤホンを耳に突っ込んで、聞こえないように防ぐことしかできない自分が厭らしく思える。
前はこんなにも子供が苦手じゃなかったのだ。恐怖の対象ではなく愛情を抱く対象だったはず、なのに。
いや、原因はわかっている。どんなに忘れたくても心が、脳が、体が覚えていた。
僕はあの日、澄んだ瞳に殺された。
純粋な気持ちが当時怯えきって何もかもが敵だと思いこんでいた僕の心を無残に殺したのだ。
愛らしく悪を知らぬ小さな手の群れと、その笑い声が。
僕だって同じだった。子供の頃があった。
だから心の中で謝る事しかできないのだ。
16.『澄んだ瞳』
台風が来るよと言えば君は不思議そうな顔をする。
「台風?どれくらい強いの?」
何を言ってんだと不思議に思って聞き返せば、どうやら君の住んでた場所では、何故か台風が消えると。
ほう。何故だ。それだというならこれからが楽しみかもしれないね。僕にとったらまたかと呆れるものになっていたけどさ。
だけど君のおかげで、嵐が来ても笑えるくらい、ちょっと楽しみになれたかも。
15.『嵐が来ようとも』
早く早くと手を引かれて転ばないように早足で歩く。ウキウキしながらどれを食べようかと品定めする姿は、可愛らしいと思うには十分。
気づけばその両手には焼きそばと唐揚げ。私もチュロスと焼きそばを買ったけれど君の食べっぷりを見てるとなかなか進まない。
どれだけ楽しみにしてたのか、ほんとわかりやすいなんて思いつつ。
今日のためにバッチリ浴衣を着込んで髪を結い上げて。声をかけられたらどうするんだろう。
そんな私も君に言われて色違いの浴衣だし。男一人もいないから守ってなんてあげられないよ。
できる限り守ってみせるけどさ。
ほんと君は私の気持ちなんて知りやしないんだから。好きなだけ遊んで思い出になるだけなんだろうな。
「あ、花火!」
その声につられて空を見る。瞬間、夏空に花が咲く。ああそうか、花火だって一瞬だ。それでも誰かの心を奪うことができるって知ってて咲くんだ。
それなら肖ってみてもいいかもね。
肩をたたいて振り向かせる。
あのね、私本当は、君の事が
花火の明かりにに火照った顔もこの気持ちも全部隠してみたけれど、君には伝わってるのかな?
真っ赤になった君の顔は、花火のせいか、それとも⸺
14.『お祭り』