もしもタイムマシンがあったなら、初めて出会ったあの頃に行くんだ。
悲しげなその顔が笑顔になれるように、君が好きなぬいぐるみをプレゼントしよう。
もしもタイムマシンがあったなら、あの時の君に会いに行くんだ。
夏風に揺れる黒髪を追いかけて、思い切りこの手を伸ばして君を捕まえる。
もしもタイムマシンがあったなら
もしもタイムマシンがあったなら
いくら後悔しても遅い。君はもういない。
夏の海に溶けて消えた君は、今頃人魚になって幸せに笑えているだろうか。
「さきにいくね」
なんて言って痣だらけの僕を置いていった、痣だらけの君のこと、恨みたくても恨めなくて、悲しくて仕方なくて。
だから僕が人魚になる時は僕に泳ぎ方を教えてよ。きっと君みたいに上手に泳げないから。
それまでこの煩くて静かな世界で、君の分も生きていくよ。
8.『もしもタイムマシンがあったなら』
洋服やコスメにブランドバッグ。そんなもの別にどうだっていいって言ってるの。
それなのに貴方は、私に会うたびにプレゼントだ、なんて言って買ってくる。
しかも毎回違うもの。よく被らないわと感心してしまう。
あのね、どんなに高級なものを貰っても嬉しくなんかないって何回言えばわかってもらえるの?
私が今一番欲しいのは、貴方の「好き」っていう言葉なの。
そう言えばあなたは鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をして真っ赤になる。そうして私の手を取って好きだと何度でも唱えてくれる、聞かせてくれる。
可愛らしく単純な考え方が、男らしいその声が、私に優しく触れるその指が、貴方自身が大好きなのよ。忘れないで。
その言葉に貴方は忘れないと言うように何度も頷いた。
7.『今一番欲しいもの』
現実とネット、知り合いと友達、先生と恋人で違うもの。今となっては一人にたくさんあるものになっていった。
少し前の僕には、ありえないなんて思っていたりしたのに。
今日も愛を込められたその声で、君は僕の名前を呼ぶんだ。
ありえないが当たり前になった、この世界で。
6.『私の名前』
いつも貴方は遠くを見ている。ここに居るのに、いないみたいに。
現実を見ないようにしてるのか、それとも最初から見えていないのか。そんなの僕にはわからないけれど、つい貴方と同じ方向を見てしまう。
するとなぜか、真新しいものが見えたりするもので。
「今日は花を見つけたんだね、どんな名前の花なんだろう」
言葉を亡くした貴方の重みに軋む車椅子を押しながら、貴方の視線の行く先に今日も散歩をしてみるのだ。
5.『視線の先には』
田んぼに広がる緑の絨毯、頬を撫でる夏風の温さ、夕立に映る歪んだ影も
そこにいるのは、いつの間にか私だけ
4.『私だけ』