宵街

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 もしもタイムマシンがあったなら、初めて出会ったあの頃に行くんだ。
 悲しげなその顔が笑顔になれるように、君が好きなぬいぐるみをプレゼントしよう。

 もしもタイムマシンがあったなら、あの時の君に会いに行くんだ。
 夏風に揺れる黒髪を追いかけて、思い切りこの手を伸ばして君を捕まえる。

 もしもタイムマシンがあったなら
 もしもタイムマシンがあったなら

 いくら後悔しても遅い。君はもういない。
 夏の海に溶けて消えた君は、今頃人魚になって幸せに笑えているだろうか。

「さきにいくね」

 なんて言って痣だらけの僕を置いていった、痣だらけの君のこと、恨みたくても恨めなくて、悲しくて仕方なくて。

 だから僕が人魚になる時は僕に泳ぎ方を教えてよ。きっと君みたいに上手に泳げないから。

 それまでこの煩くて静かな世界で、君の分も生きていくよ。

8.『もしもタイムマシンがあったなら』

7/22/2023, 10:55:45 AM