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11/25/2025, 4:02:15 AM

君が隠した鍵


 一人では何も始まらないということはきっとみんながみんな知っていることでした。当然、一人で砂をいじっていた僕は何もできないわけです。そこに君がやってきたのです。  
 いろんなことを知りました。それは遊びだったり、物の名前だったり、ルールだったりしました。でも一番不思議なのは気持ちでした。僕は楽しいを知りました、嬉しいを知りました。そして寂しいも悲しいも知りました。僕の中に閉じ込められていた気持ちに君は次々と鍵を差し込んでいきました。  

 そういうことがあって僕は僕になったのです。
 でも、僕の中にいつまで経っても開かない気持ちがありました。君のことを思うと内側からどんどんと僕を叩くのに、その気持ちの扉は開きませんでした。
 いつしか君は一人じゃなくなりました。僕と会うことはなくなりました。君は、君の扉を開けてくれる人を見つけました。

 ずっと開かなかった気持ちはもう、扉を叩くことはありませんでした。

 ねぇ、君が隠した鍵は、一体何の扉を開けるためのものだったのですか? もしかしてそれを開けてしまうと、僕は僕ではなくなってしまうはずだったのでしょうか。
 あの小さな背中に聞いてみればよかった。
 君が開けた幸福の扉の先に僕が行けないとしても、僕は君のことを忘れられないと思うのです。君のせいで僕の中身は殆ど空っぽなので。

11/13/2025, 11:49:06 AM

祈りの果て

 折れてない折れてないという祈りの果てに、結局は骨折していた。
 そんなおりに「祈ると折れるって似てるね」と言われたのでちょっとキレた。これは仕方ないと思う。
 でも俺は知っている。お前が一番心配してるってことを。
 さり気なく俺の荷物を持って移動教室を始めるお前に、「速い」って文句を言いながら松葉杖をつくんだ。
 そしたらお前はこう言う
「早く出発しないと授業に間に合わないだろ」
 

 好きじゃない、好きじゃないとずっと祈っていた。初めて会ったその時にお前だけはダメだって思ってたから。
「笑うなよ、俺が大変だってときに」
「は〜? 八つ当たりキツくね?」

 止めて、その笑顔を向けるなよ。

 祈りの果てに、俺はきっとまた恋に落ちた。

11/9/2025, 3:19:04 PM

心の境界線



 心には様々な境界線がある。楽しいと苦しいの境目、うれしいときもちわるいの境目、悲しいと悔しいの境目。
 でも私の中には美味しいとそれ以外の境目がなかった。 どんなに苦しくても美味しいものは美味しいままだし、不味いものは不味いままだ。
 それが不思議で吐くまで食べ続けるのが一種のルーティンみたいになっていた。
 でもそうなのは小さい頃だけだよね。
 美味しいはいつか作業になる。これから動くための準備動作に過ぎなくなる。美味しいと面倒くさいの境目はここにあったのだと、初めて気づく。美味しいの領域は色んなとこに伸びて、もはや純粋なところなんて一つもないのだ。

11/8/2025, 9:40:57 PM

透明な羽根



 透明の羽根を持つ蝶がいることは、かなり有名な話だと思う。蝶の羽根に鉛筆を透かした写真がやけに印象に残っていた。
 普通、蝶は鱗粉をまとって雨水などから身を守る。しかしながらその蝶は鱗粉を持たないわけだ。鱗粉なんて他の虫にはないんだからそれが正しいとも言えるけど、珍しいと言われる特徴だった。
 その蝶は景色に紛れるために透明な羽根を選んだのだという。なんだか、透明人間の逆みたいなことをしているなぁと思った。蝶らは身を守るために自らを隠すのに、人間は、自らを確立するために己を見てもらわなくてはいけない。
 透明な蝶にうっすらと関心が集まるのを彼は恨めしく見ているような気がした。

11/3/2025, 10:24:12 AM

行かないでと、願ったのに




 それは遠く遠く閉じ込めていた秘密の話。
 針で押さえつけて、ガラス箱に飾ったカラカラの物語。


 もしもあなたが同じ世界で生きてくれるならそれだけでよかった。
 私が側にいられなかったとしても、いくら苦しんでいたとしても、それだけでよかった。命があればあなただけはまだ人間だから。
 人間っていう生き物の価値が、あなたにはまだわからないかもしれない。けれど、そうじゃなくなってみるとそれなりに尊いはずだよ。たくさんの数が、気持が、価値になってくれる。
 もしもあなたが人間の世界で人間として生きれたら、私は夢でもよかったのに。

 行かないでと、私もかつては願いました。でもね、私は結局追いかけてしまった。それで、うまくいかなかった。だからあなたに願います。

 あなたはね、長い夢を見てたんだよ…

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